ゴッドキャンセラー
『愚か者め、そのまま沼へ落ちるがいいわ』
「――なんのなんの。こんなのは仕送りをゲームに使いきって20日凌いだ時に比べたら屁だよ。屁のかっぱ。モヤシは偉大」
そう人間のクズな体験談を自慢げに誇ると、ゲーマーは軽口を体現するかのように、ヴァージニアを巧みに操作。
丘から転げ落ちる前に点在していた岩を人並み外れた握力で掴み、『何だと!?』反動を利用して体操の鞍馬みたいに反転した。
「よし、無事着地」
何事もないように地面に足を着く。
それどころか、ヒロインのダメージゲージは全く減ってない。
ぴんぴんしていた。
『…………変態、何で私は何ともないんだっちゃ?』
相棒へ身を委ねて受けきった当事者も呆然、面食らっている。
「聞きたいの?」
『……いや、止めておくだっちゃ。頭から煙が出る』
ヴァージニアの判断は正解。
その答えは常識を逸していたからだ。
操縦席に備わっているヴァニシングライダーのメイン機能、『ギアシステム』は車と同じギアチェンジで身体能力を底上げする。
強敵バクリュウキョウにもサードギアまで引き上げてとどめに使用した。
ゲーム『ヴァニシングライダー』を熟知していたハルトは、今回更に難度の高い裏技にチャレンジしている。
実は性能が変わる主力ギアを上げたり下げたりすると、一瞬だが無敵時間が生じるのだ。
ファースト→セカンドorセカンド→ファーストのように。
刹那的タイミングなので一般ゲーマーでは狙って出来る事ではないが、しかしながら、天才ゲーマーゴッドハルトはこのカテゴリーに入らない。
ギア使用時間を逆算、ゲームのヴァニシングライダーのシステムさえも巧みに自在に操る。
変態またはクレイジーという畏敬の念で呼ばれるのは伊達じゃなかった。
身に付けた理由はお金がないのでチートスキルが買えないという何とも貧乏学生らしいお話。
ならばと命懸け、特になけなしの資金を費やしシステムを全て把握後、最強の攻略法はないのかと編み出したのがこの神業だったのだ。
今ではSSS級難度『ゴッドキャンセラー』として世界中のゲーマーやeスポーツ界に知られている。
『今の私にそんな攻撃は効かないっちゃよ』
「ヴァージニアさんいいよ、ドンドンプレッシャーを与えて」
ハルトの指示でヴァージニアは男爵の動揺を煽った。