ゲーマーズコンチェルト
『人間如きが我ら魔族に勝てるカ!』
『魔族の力思いしレ!』
『この劣等種め、抵抗したところで貴様らに何ができル!?』
敵も必死だった。
それが使命感からなのだろうか、それとも誇りからなのだろうかは分からない。
ハルトは考える。
知能が然程高くない種族なりに何か特別な矜持があるのだろうと。
だが、そんなゴブリンに対し、「いや、ごめんね。悪いけどこれで終わりだよ」ハルトは静かにスキル『突破』をセットして勝利宣言。
『『『なんだト?』』』
瞬間、一匹、また一匹、地面から引き剥がされるように体が浮かぶ。
例えるならば同極の磁石を無理矢理近づけ反発させるかのように、数十匹の強靭な集団が、たった一個体が起こす爆風にも似た衝撃波で弾け飛んだ。
『やったか!?』
「ヴァージニアさん油断しないで! 奴が来るよ!」
『――っ!?』
隠れていた対象物は狙っていたかのように行動開始。
ハルトは要注意ターゲットがレーダー上で動いたのを見過ごさなかった。
『チェストオォォォォ!』
シュレリア男爵はあろうことか、衝撃で舞い上がっている味方である筈の兵士達を煙幕に見立て、近接の死角から上段で前のめりに打ち込んでくる。
存在位置を全て見通しているゲーマーでも、対応を間違えば即死していた程だ。
しかし、事前に長瀬 凛と入念に打合せした今、その限りではない。
バクリュウキョウより格段に手強い事を想定して戦略を立てたハルトに死角はないのだ。
当たり前だが、一見無策のこの真っ向う勝負にも意味はある。
敵味方双方予測を立てやすくする為だ。
選択肢を少なくすれば、それだけ汎用性の高いスキルの有効性が上がる。
スキルにも色々と副作用の制限がある以上、何にでも転用可能でリスクのない物は重宝した。
なのでシュレリア男爵の唐竹割りを彷彿させる猛烈な一撃も、反動を引き換えにガントレットを交差させて威力を相殺無効化。
『ヴァージニア卑怯なり! それでも騎士か!?』
『何とでも言えだっちゃ!』
「ヴァージニアさん、これも心理戦だから相手にしない!」
『分かっている!』
ヴァージニアは後方へ飛ばされ、懐に入られてからの鋭い正拳突き。
頑丈な拳に覇気を乗せて打ち込まれる。
更に空いているもう片方の手に握っている大剣で、移動を封じる為に足を凪ぎ払われた。
とどめに男爵はヴァージニアがなわとびジャンプで躱した瞬間、柄を両手に持ち替えて正面から力一杯の一撃。
スイカを割るような鈍い衝撃音が、勝利を確信する祝砲へと相成った。
頭上へ決まると同時に目一杯踏み込んだ足は、大地が耐えきれず肥沃な土にめり込む。
熟練者だけが使える必殺の剣技である連撃を繋げているので、ハルトに回避する隙を与えなかった。