メテオストライク(仮)
『私はお前を信じているだっちゃ。信じきっている。ならばそれに答えるのが男の矜持ではないのか? なぁハルト!』
「!!」
ヴァージニアは民をどう喜ばせるかまたは鼓舞すれば良いか心得ている。
本人にはそんな気が無くとも、両親や領民と共に時を刻んで身に付いた領主としての教育の賜物だ。
勿論ゲーマーも例外ではない。
熱血好きのシチュエーション的には猛るのだ。
その証拠に封印した元中二病の心へダイレクトに響いたのは言うまでもない。
「もう! 仕方がないなぁ、後悔しないでよ?」
『やらいでか!』
少女のレモンスカッシュにも似た甲高く洗練された純粋な声色は、ハルトの鼓膜を通じて脳内へ深く刻み込まれた。
この瞬間をもって、締結するが如く心と体が完全にリンク。
ハルトが握る操縦桿は先程までのロデオまたは時化た大海原状態から一変、全て嘘のようにブレが収まる。
両者が再びお互いを受け入れた証だった。
ハルトはこの隙に手早く無茶して血だらけになった手へ、シャツの先端を破り包帯代わりにぐるぐる巻きして缶バッジで止める。
当然ながらゲーマーとして能力を120%引き出したいからに他ならない。
いや、それともおまじない若しくはやる気の切り替えスイッチと説明した方が、この場面では分かりやすく言い得て妙か。
ただ、またまた切り裂いたシャツの文字が無理矢理結合して七転八倒と読めるのが、残念というか3枚目残念系ヒーローの成せる見技であった。
画面には5ヤードを切る知らせと、敵衝突の警報。
「いっけぇぇぇえ! メテオストライク(仮)!」
『だっちゃあああああああああああああ!』
劣等騎士の掛声と共に魔族が阻む壁へと突貫。
巧みにコンソールと操縦桿を動かし軌道を微調整、小さいが確実に盾と盾の隙間を狙う。
しかし、隕石のような衝撃でも盾の陣形は吹き飛ばず、逆にヴァージニアが跳ね返されそうになるが、すぐさまスキル『仰け反り無効』を発動させて体勢を戻した。
ゴブリン達も船や大岩を押すように負けじと応戦する。
しかし、食い縛るあまり腕の腱が切れる者や歯が折れる者もいた。
加速はじわじわと相殺されそうになるが、ここでハルトはスキル『加速延長』と『加速力2倍』のカードを投入。
当初は耐えていた魔族側もジリジリとヴァージニアのパワーとそれを生かすスキルによって後退ってきた。
めり込んだ足跡が後ろへとラインを引いていく。