この領地の未来の為
「ごほん、これからどうするかだっちゃ」
失態を無かったかのようにそそくさと乱れた身なりを整え、自分を受け止めてくれたそびえる大きな年長者に敬意を払う。
その根に寄りかかり、かたわらの天然食料庫からもぎ取った形の悪い桃を噛りながら、未来予想図を思い描く。
「どうするもこうするも、オットウもオッカァもいるのにおら達だけで逃げるなんて出来ねぇだよ」
「うんだうんだ」
「だども、行ったところで殺されるだけだぞ」
進退を決めかねるヴァージニア小隊の面々。
兵糧と貯蔵庫を押さえられた今、大軍を率いている騎士団に勝ち目がない事を悟っていた。
「オスカーさんとボブソンとアトスは、今は身寄りがないっぺ」
「言って良いこと悪いことがあるだぞ」
何を言いたいのか悟った年長者のオスカーは副長を強めに嗜める。
「同郷を見捨てて逃げる位ならここで殺されたほうがましだっぺ!」
「最後までお嬢様と共にいたいだ!」
と、残り二人も負けじと続く。
兵士達はシュレリア男爵に恩義を抱き、忠誠に近い感情が村々に根付いている。
だからある種、踏み絵に見えなくもないこの誘惑に、臆病風が見透かされている気がして焦った。
「伯爵様が名誉の戦死をした今、付き従う部隊もいないだっちゃ。帳簿がないから逃亡しても軍律に抵触して処分されることはない。お前達だけでも私達の分まで生きるんだっちゃ。誰かが生き残れば私達の勝ちだっちゃよ」
ヴァージニアは副長の考えに賛同、胸中を告白して必要性を訴え諭す。
「くっ! お嬢様がそう仰るのなら……」
「シュレリアの火を絶やすわけには行かないべ」
二人は納得したものの、「いやじゃ!」アトスだけは首を縦に振らなかった。
「アトス、言うことを聞くだ!」
仕方ないのでボブソンは巨躯を生かし、分からず屋を軽々と米俵の要領で担ぐ。
「離すだぁ!」
「済まないだっちゃ」
「お嬢様のお気持ちをお察しすると、おら達は胸が張り裂けそうですだ」
去っていく仲間の背中に懐かしき想い出を重ねながら、騎士として隊長として領主の娘として深々とコウベを垂れた。