リロード(ハルトサイド)
3
空中を我が物顔で占領している窒素と酸素の混合物。
重力に乗りそれらを問答無用で切り裂くサウンドが、不快な低周波の耳鳴りにも酷似した森羅万象の摂理を行く者達へ、また世界の流れに逆らう反逆者達への手向けとして響いている。
全身に伝う落下の流れが、例えるのなら濁流に身を置くに等しい衝撃を少女は小さき体で耐え抜いていた。
運命を共にする半身も相方の身を案じながらも自らの仕事に余念がない。
360度映し出されている狭い空間でコンソールに手を置き、手早く何かを黙々と入力していく。
されど非常にブレる操縦桿を片手で必死に抑えながらも、その面持ちはとても平静であった。
気づかないうちに手豆が潰れ激痛に耐えている事もおくびにも出さない。
これもパートナーへ向けた彼なりの繊細な配慮なのは言うまでもないだろう。
画面に映る迫り来る地面、迎え撃ってきたシュレリア男爵へ内心抗えない恐怖を抱きながら、ただ、スナイパーを見習うかのように最上の一瞬を狙っていた。
全ては死しても酷使されるヴァージニアの父を一刻も早く楽にしてやる為に……。
――お気付きだろうか。
ここで再び時を再生機みたいに少し戻した。
何故なら大切なシーンとは片方からでは見えてこないものもある。
ならば敢えてここは理のリベンジャー達の動きを追うのも一興ではなかろうか。
黄と白の絶妙な配合、美しいブロンドの髪を玉子の黄身をかき混ぜるみたいに踊らせながら急降下する少女騎士ヴァージニア・ウィル・ソード。
下へ突き刺すように構えを取る父の形見となってしまったグレートソードは鈍く光を反射した。
容赦無しの空気抵抗に柄へ力が籠る。
みるみる大きくなる的へ不意に過ぎる思い。
矢に意識があったら常に中心を狙ったかなと自分の置かれた境遇と重ねた。
現状のまま勝敗は決するかのようにも映ったが、さりとて残念ながら敵対者は殺生を生業とする者達、生粋の軍隊だ、愚かななる烏合の衆じゃない。
傍観せずヴァージニア達に合わせて標的も次なる行動へ移る。
バラけていた筈の薄気味悪い緑肌のゴブリン兵達が、シャセキ達を守護するかのように密集して円型の盾バックラーを一斉に斜め上へ構えたからだ。
さながら丸いソーラーパネル、または即席の逆に向けたパラボラアンテナのような異様な光景。
それにともないターゲットの姿は消失した。
幸いレーダーには移動する気配がないので、よっぽど自身に信用をおいているのか、これ以上小細工は不要と判断したのかと、優位な立場である筈のハルトは悔しそうに呻く。