一撃入魂
されどヴァージニアのパワーと衝撃を削って持ち堪えるも、それでも足が徐々に地面へめり込み始めた。
押し負けないようにラグビーのスクラム編成した隊列は、渾身の力を込め重心を落とし前へ前へと足を進める。
相手に加速が掛かっているとはいえ、魔族が人間に押し負けるなんて事などあり得はしないと、みな誰しも疑っていなかった。
しかし、歴史を紐解くとどんな事にも絶対は存在しない。
あったのなら戦争は勃発しないだろう。
実際の歴史でも永遠に続くかと思われたアレキサンダー大王や始皇帝やチンギスハーンの支配も長くは持たなかったのだ。
世界とはどんなことが起こっても不思議はない。
然らば、攻撃側の勢いが増してきても必然的なものなのだ。
その証拠に魔族側の鯨波が恐れと悲痛なものへ変質してくる。
隙だらけになった金髪弾丸娘をここでセオリーに則り背後から回り込んだ槍兵が一斉に突くも、然したる手応えを得なかった。
例えるならば霧を刺したような虚無感。
またもや不思議な現象が彼らの行くてを遮った。
「そこをどけだっちゃああああああああ!」
ヴァージニアに呼応するかの如く、包み込む謎の発光が強みを増す。
魔法の身体強化系にも似た気の膨れ方にゴブリン達は恐れが過った。
守備が衝撃または重さに耐えられず、また一匹また一匹、痙攣を起こして強靭な膝を折っていく。
それでも退けばこの先に待っているのは死だと悟っているので、バクリュウド軍のゴブリンが人間に心を屈する事はない。
それでも束の間の均衡は破れた。
気合いで勝った少女の一撃に鉄製の盾が音を立てて亀裂が走り、「どっせぇええええ!」掛け声と共に文字通り防御陣が粉砕される。
ゴブリン兵達は堪えられず四散して吹っ飛だ。
まるで爆弾のような威力。
この陣形の弱点は貫通力。
即ち、弾丸となったヴァージニアには全くの無力だった。
魔族達は密集陣形を取るべきではなかった。
実際、十九世紀までは有効だったが機関銃の登場で散兵を主とする現代の戦法へとシフトチェンジした。
それだけヴァージニアをいや人間を下に見ていたということだ。
衝撃で飛ばされるゴブリン兵達、だがその瞬間、「チェストオオオオ!」狙っていたかのように、男爵の渾身の一振りがコメットと化している自身の一人娘を襲う。
そう、盾は陽動で真の狙いはこの一撃を悟らせないことにあった。
この構えは一撃必殺だが、重い分避けられやすい欠点がある。
その為、盾には隠れ蓑になってもらう必要があったのだ。
渾身の剣撃がヴァージニアの顔面へ決まる。
しかし、手応えあっても男爵は力を緩めることなく尚も剣を棒のように押し込めた。
それは彼女がガントレットで防いだからに他ならない。