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隗より始めよ


「何故、人間如きが空を飛んでいる?」

「シャセキ様、タヌキが龍に化けました。何か一計を案じないとこの局面を脱する事が難しいかと…………」

 

 呆気にとられている場合ではない。

 上をとられる事がどんなに恐ろしい事なのかは、歴史を紐解けば一目瞭然だからだ。

 

「分かっている。バクリュウキョウの捜索もしなければならん。こんなところでまごついている場合ではない」

「はっ。心得ております」


 男爵はバクリュウキョウが戦死したことを知らせてはいなかった。

 残念ながら魔王国も一枚岩ではない。

 多数の派閥が秘密裏に権力争いを繰り広げていたからだ。

 魔界の名門バクリュウ一族に名を連ねる以上、戦死が伝わればこれ見よがしに他派閥が難癖をつけてくるのは自明の理。

 ならば魔王直属としては戦時の安定を図る為に、余計なイザコザは起こさない方が良いと判断した。


 そしてその一因にヴァージニアが関わっている事はもう明白。

 あの出来損ないに何があったのかと勘繰るが、幾ら考えを巡らせても答えは出てこなかった。


「…………暗部どの、参考に聞きたい。お主ならこの盤面、どう切り抜ける?」

「影の私がでしゃばるのは道理に外れまする」


 発言を男爵は辞退。

 上官から求められても、安易な口出しは自滅に繋がりかねないからだ。

 これがこの過酷な環境で生き残る唯一の手段。


 ちなみに魔族達は動きを止めていた。

 二人して空を眺めている様は滑稽だが、これも立派な戦の習わし。

 相手に悟られず動作を封じ口だけ動かす。

 

「構わんよ。参考にしたいだけだ。恥を晒すが急なことだから、中々考えが纏まらん」

「そうですか。でも、私ではお役に立てないと思いますが」


 なおも固辞。

 暗部は表だってまつりごとに関わってはならないという鉄の掟がある。


「故事に『隗より始めよ』というのがある。実例がないのならばここから実例にすればよい」

「しかし……」

「ならば上官命令だ。責任は私がとる。述べよ」

「…………然らば、もっと迎撃に適した場所へ移動するべきかと。兵共と合流後、密集陣形で弓兵による一斉射撃で迎え撃つのが妥当ですな」

「他には?」

「煙幕を張り、虚を突きます。人間は視界が遮られると恐怖が生まれるものです。戦いとなれば尚更ですな」

「…………………………」

 

 シャセキは言葉にならぬ声で呻くと、暫く長考。

 微動だにしないその様は、さながら虫の射程距離まで息を殺すカメレオンそのものだった。

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