決意
ゲームの対人戦なら何らかのモーションを仕掛けてくる。
もし何も動きがないのなら回線遮断が降参の二択しかない。
それだけこの無反応はハルトにとっては意味不明だった。
「…………これはどういう事だ?」
『ハルちゃん、一体どうしたの?』
予想外の対応で当惑を隠せないところに相方が尋ねてきた。
凛は一服していたのか、キーボードを打つ音に混じってインカムからコーヒーか紅茶を啜る音が聴こえる。
「考えが甘かった。長瀬さんどうしよう。男爵達が動かない。予想なら迎撃しやすい場所へ移動するはずだよね?」
『じゃ、余程ヴァージニアちゃんを受け止める自信があるって事だよ』
「パワーVSパワーか。幾ら劣等騎士と揶揄されても、ヴァージニアさんを舐めすぎだ。それに降下で加速した物体は易々と止められない」
『そうだね』
それでもいやな予感が止まらない。
胸の奥がざわりと騒ぐ。
これを見てと、凛はハルトのスマホへデータを送信。
略式の地図の上に、相手の出方とその対処方法が書かれていた。
僅かな時間でこんな芸当が出来るは、彼女はプレイヤーよりサポーターに向いているからだろう。
「でも、僕は正直言って勝てる気がしないよ。バクリュウキョウクラスの化け物をもう一度倒せって言っても、出来るかどうか」
柄にもなく緊張していた。
ゲーマーならアクシデントは料理の隠し味程度ぐらいにしか認識していないはずなのに、ヴァージニアの運命も握っているの思うとみがすくむ。
それだけ男爵には歴戦の勇士としてのハクを兼ね備えていた。
『しっかりしてハルちゃん。ここまで来たらやるしかないんだよ』
「分かっているよ」
『いや、全然分かっていない。これは遊びでもゲームじゃないんだ。でも、ヴァージニアちゃんを助けられるのは、ハルちゃんしかいないんだ。なら覚悟を決めろ。男だろ!』
珍しく声を荒げた。
いや、凛がハルトを本気で叱るのは、コンビを組んで長いがこんな事は初めてかもしれない。
肝心な時にヘタレになるのはいつもの事なのでどうってことはないが、時と場所を選らんで欲しいと訴える。
「…………やるよ」
『本当?』
「やってやる!」
『気持ちが感じない!』
「僕がヴァージニアさんを助ける!」
気持ちが決まる。
凛は気持ちをコントロールするのが上手かった。