選択肢
――――あれから状況が変わっていた。
それはシュレリア男爵への宣戦布告ともとれる行動を起こしたからだ。
敵大将の目の前でゴブリン兵にとどめを刺してトリックを明かす。
これを挑発ととってくれれば御の字だが、罠ととれば警戒される一つの賭け。
自殺行為でもあったが、シュレリア男爵達を逃がしてヴァージニアの存在を知られる訳にはいかないと悟ったハルトの苦肉の策だ。
幸い何処にいるのかを肉眼で向こう側から特定することは出来ないだろう。
しかし、条件はこちらも同じだ。
少し上昇し過ぎて男爵達の位置が特定出来ない。
ゆっくりと降下しているので、再び肉眼で捕らえるのは時間が必要だった。
その間に次の準備に取りかかる。
『ハルちゃん、ヴァージニアちゃん辛いんじゃない』
「うん、酸素があまり取り込めないみたいだ。長居はできないよ」
『バッド! そっちじゃない。乙女心が分かってないな、このゲーム脳は! バーカバーカ』
凛は強めに叱咤した。
反論したかったが、本当なので否定は出来ないゲーム脳。
それでも未だに意味を理解していない。
それと本体とリンクしているので、これだけ喋っていたら普通は気づかれそうだが、ヴァージニア側に漏れないようにスピーカーの音声をオフにしているから、凛の存在はまだ気づかれてはいなかった。
ただ、口はパクパク動いているので独り言を呟いている可哀想な人の認識は否めないだろう。
その上で魔族の次の行動を予測。
・降伏
・逃げる
・現状維持
・徹底抗戦
挙げた選択肢を凛と一緒に一つ一つ論破していく。
こうすれば敵の次の行動がある程度絞り込める。
降伏…………降伏に見せかけた罠の可能性はある。
でも、シャセキが策に美学を持っているのなら、同じような手口を二度やる愚かな行為はしないだろう。
逃げる…………敵の目的は達成している以上、可能性は高い。
ただし油断を演じて可能性を残しておけば、娘一人相手だ、慎重でもその可能性はない。
現状維持…………敢えてこちらの行動を無視する。
シャセキならこの辺の心理を突いてきそうだ。
ただし、こちらの情報が少ない今、そんな馬鹿な真似はしないだろう。
徹底抗戦……これが一番確率が高い。
何故なら奴らは戦闘を一番の是とする魔族だからだ。
ならば、どういう風に来るかに話は移る。
・力と力の真っ向勝負
・逃げると見せかけてからの罠
・武将同士の一騎打ち
力と力の真っ向勝負…………正攻法だ。
数が減ったとしてもたった一人を相手にするのだ、これだけ十分だろう。
逃げると見せかけてからの罠…………寡兵の戦いで良く使う戦法だ。
ただし、用意周到な準備が必要となるのでここでは適用出来ないだろう。
武将同士の一騎打ち…………これはヴァージニアが望んでいる事だ。
確かに手っ取り早くてハルト的には助かるが、シャセキが率いている以上男爵を倒してもそれで終わりはしないだろう。
そして、納得する結論が出た。
後は行動に移行するだけ。