青き清浄の異世界
青はどんなに目を凝らしても青だ。
黄色や赤にはならない。
黒より明るく、赤より暗い。
生物の殆どが生まれたときに初めて目にするであろう巨大な揺り籠のカラーだ。
そんな我らに馴染み深い青は、文字として色んな場面で活用されている。
青春、青菜、青魚、刺青、青酸、青磁、青年エトセトラエトセトラ。
赤は危険を知らせるシグナル、なら青は心をクリアにさせる為の安定剤だろうか。
人間はよく心を落ち着かせるために空を見上げる動作がある。
これらも太古に生物が誕生した母である海へ思いを馳せているのでないかと、ロマンチストなら詩の一つでも作りそうだ。
ならば、詩人に対抗してこんな出だしはどうだろうか。
青とは全てを飲み込む深い心理に酷似している。
喜怒哀楽何もかも、この青色に取り込まれてしまいそうだ。
そう、空に浮かぶ少年少女の思いも何もかも、青の巨大な饅頭の皮に包まれているようだ。
上空には何もない。
山もなければ川もない。
町もなければ城もない。
足を踏み込む大地も、自然の匂いも何もない。
心は自由、されど不自由さも兼ね備えている。
よく空は己の人生の環境を比喩言葉として用いる。
それだけこの青の空間は、広大で膨大で雄大だった。
『はぁはぁはぁ、苦しいだっちゃ…………』
金髪の少女はなけなしのスープを飲み干すように味わいながら、空気を喉に少しずつ落とし込む。
腰まで伸びてる髪は風に煽られて常にダンスをしていた。
高度一万メートル上空の気圧は低い。
酸素も少な目で呼吸が荒くなってきている。
勿論、人が生活するには極めて劣悪な環境だ。
幾らゲームシステムの効果で守られている少女騎士でも、頭痛と目眩等の代償を払っていた。
ヴァージニアの状態を示すパネルが、操縦席の右に映し出されていた。
そこには線で描かれた人体に、色で消耗度を分けてある。
残念ながら数値的にはあまり芳しくない。
酸素が足りないと頭の回転も遅くなってしまう。
加えて師匠に続き肉親を失ったショックが、心理的に彼女の体を虫歯んでした。
幸い、中にいるハルトには何の反応も出ていない。
実際、ここがヴァージニアと同じ空間にいるのかも怪しいからだ。
なので本当は何処なのかは、まだ分からないのが実情。
そんなパイロットは上空の異常な突風を操縦桿で巧みにコントロールしていた。
凄腕ゲーマーの名も伊達じゃない。
神 ハルトは深呼吸するが如く、気持ち良く操作。
まるで気象予想士が予測するように次の流れを読んで、先行入力を駆使して回避していた。