一蓮托生
『あれは父様独自の剣の構えだっちゃ。幾多の戦いの中で身につけたものだそうだ』
「そうなんだね。でも、独自でその領域にまで辿り着いた人となると、相当な手練という事だよ。正攻法は論外として奇襲でも勝てないと思うな」
『うん…………』
ヴァージニアは複雑な心境で頷く。
分かっていた、男爵に勝てない事ぐらい。
中身は別人でも王国に名を轟かせた紛れもなく自慢の父親なのだ。
実際示現流の創始者東郷重位もタイ捨流学び天真正自顕流を伝承、両流派の利点を創意工夫した後、示現流初代として達人の領域にたどり着く。
まだ分からぬが、男爵が一代でここまでの領域の剣技を極めたとなると、ヴァージニアが足掻いたところでどうにかなる相手ではない。
勿論、それはハルトにしても同じ事が言える。
スキルの力がどれだけ万能でも、全知全能とはいかない。
結果、慎重に慎重を重ねるしか道が見えないのだ。
「正直に答えてくれっちゃ。私達はあの偽物に勝てると思うか?」
『この戦法もまだ気付かれてはいないけど、このまま継続していればいずれはバレるだろうね。知恵者もいるし。それにもし全て殺しても一対一で男爵に勝てるかも正直怪しい』
「あのバクリュウキョウを倒したお前の力を持ってしてでもか?」
『やってみないとなんとも言えないけどね』
ヴァージニアは気が緩んだのか、また空を舞い始めた。
緩やかに綺麗に回転する。
ヴァージニアはハルトに主導権を預けている間ずっと考えいた。
常識的に考えて、多くの味方が殺されたらそんな強敵に斬りかかる馬鹿はしない。
それが父から聞かされていた歴戦の戦士の真理だ。
場数を踏んだ職業軍人程その傾向が強い。
ならばこの作戦どおり行えば幾ら偽物でも男爵は撤退する可能性もある。
だからこそこの場でとどめを刺して、生き恥を晒し続ける我が父を安心させたかった。
その事をハルトへ伝える。
ヴァージニアにはなすすべはない。
勝てる鍵は彼次第なのだ。
だからこそ、自分の思いを正直に話す。
悔しい思いも悲しみも全て込めて相棒に託す。
『――――なら、作戦を変更しようか』
暫く黙ってヴァージニアの思いを聞いていたハルトはこう告げた。
「どうする気だっちゃ?」
『どうせだったら男爵に見せつける』
「でも、それだと逃げられてしまうだっちゃよ!」
『我に策あり』
ハルトは意味ありげにニッと口角の先端を吊り上げる。
それを見たパートナーは不安が募り一蓮托生を止めたくなった。