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毛を以て馬を相す


「ただ、探すのは良いが、あそこには近付かない方がよい。あの沼に引きずり込むように色々と細工しているのでな。ゴブリンなら幾らでも代わりはいるからよいが、暗部どのに何かあれば私の首が危ない」


 首をある方向へクイッと曲げる。

 地平線まで続く大地に根付く草花が一斉に風に撫でられていった。

 その有り様は例えるのなら浜辺の波。

 カモメやアホウドリがいればパーフェクトだが、残念ながら騎士団の死体に群がるコンドルや禿鷹ぐらいしか見当たらなかった。


 その方角の遠くに見える五千の軍勢。

 一見、草原に魔族が陣構えしている様にも映る。

 しかしながら実際はそこに兵士はいなかった。

 あるのは生者を飲み込む無情な底無し沼だけ。

 いくつかの細工と光の屈折と人間の視覚を巧妙に突いたトリックアートが、草原と軍勢へと錯覚してしまうのだ。

 

「お気遣いかたじけない。事前に説明を受けていなければ、私でもこれは見抜けなかったでしょうな」

「おお、そうだろうそうだろう!」


 隠密のプロである暗部に称賛されて満更でもないようだった。

   

「あと、あの擬態兵は良いとして、奇妙な陣形は一体何だったのですか? 文献でも見たことがありませんぞ」

「詳しい事は分からぬが、あれはだな鶴翼の陣と言う」

「鶴翼の陣?」


 初めて耳にする陣形に興味を示した。

 

「そうだ。本来の用途は相手軍勢を包囲する為に使う陣形だそうだ」

「なるほど。しかしその言い方だと、まるで誰ぞの案の様にも聞こえまするが…………」


 そう、こういった悪巧みに縦横家は敵大将の首を取ったぐらい嬉々として説明する輩が多いのに、それに比べ、シャセキはただ喜んでいるだけのようにも取れる。


「恥を晒すと実はこの一連の連環の計はある方から授かった必勝の策なのだ」

「何と、そうなのですか」

「名前は明かせぬが、虚を突くのは戦術の基本中の基本だが、あの方は抜きん出ている。紛れもない天才か神に愛された者だ」

「なら私も保身の為に従軍中郎様が溢したコトノハは、一切口外しない方が良いですな。むしろ聞かなかった事にした方が正解だ」


 ……あの方。

 気になるが幾ら暗部の情報量をもってしても、シャセキが口にする人物は誰なのか特定できなかった。


「だから打ち明けたのだよ。秘密機関に所属している以上、国家に仇となる事以外仕事で余計な事を喋りはしない。暗部どのなら安心だ」

「貴方も食えないお方だ」


 的確な推察に対して、縦横家はかんらかんらと笑って答えた。

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