人事を尽くして天命を待つ
「それでだ、あの人間の娘を速やかに発見しなければならない。そうじゃないと私の焦りが募る一方だ」
「心中お察しします」
しかしながら、シャセキの言動に反して、顔は仮面の如く一切微動だにしない。
元々カメレオンに表情はないので、顔面だけで喜怒哀楽を見分けるのは難解というか無理な話だ。
シャセキ達は逃したヴァージニア達の行方を探している。
視界が開けている場所ではあり得ないのだが、奇襲を掛ける為に掘った大量の穴が逆に仇になった。
これが墓穴と言わねば何だと言う話だろうか。
「しかし、何故に戦局に全く影響しない小石を総出で探索しているのでしょうか? 人間達への見せしめの公開処刑にしては効果が余り期待出来ないと愚考しますが」
「そうではない、そうではないぞな、暗部どの。もしヴァン公爵の行方を知っていたら色々と厄介なのだ。不安要素は出来るだけ取り除いておかねばなるまいて。なるまいて」
と、両袖を鶴のようにはためかす。
シャセキは一々大袈裟に表現する傾向があった。
弁舌で出世を切り開いた縦横家あがり。
そのせいもあって、狂言師の如くあざとさと滑稽さが、中々真意を掴ませなかった。
「大事の前の小事、されど万全を期すですな」
「うむ。知っての通り、我らは姿をくらました敵の総大将ヴァン公爵の所在を躍起になって探索している。あらかた決着は着いているが、驃騎将軍は慎重なお方だ。かの者の首をその眼で見届けなければ安心できまい」
当初の予想に反して他の貴族達が悪足掻きをしていた。
残っているのは全てヴァン公爵派の俊英達。
これらを殲滅させるにはどうしても公爵の足取りを掴みたかったのだ。
「はっ、私もそれとなく探りを入れましたが、残念ながら情報を知る者はおりませんでした」
「あの娘もか?」
「…………はっ」
「……………………」
暫し押し黙る双方。
畏まる男爵。
対してカメレオンの奇っ怪な容貌は、まるで表情を読み取っている様にも見えた。
「側近だったゴスロ伯爵に近しいあの童なら何か情報を持っていると思ったが、私の見込み違いか」
従軍中郎はシュレリア男爵から調書した竹簡を確認しながら、覚え書きを足していく。
「派遣した遊撃隊も気になる」
「食糧庫を燃やす任務を帯びた部隊ですな」
「そうだ。そなたの情報によるとゴスロ伯爵はバクリュウキョウ伯長が討った。任務は成功したのに、その後の足取りが一向に掴めなんだ」
「ヴァージニアが何かを知っていると?」
「状況を確認するに関連性は無きにあらずや。仮にもバクリュウ一族の者に何かあれば私は将軍に申し訳が立たない」
「今のお言葉、感銘しました。貴方こそ誠の忠臣です」
だが裏腹に、この言動に男爵は違和感と現状とは別のところに思いはあると、長年の暗部としての勘が告げた。