発想を変える
地上までの距離は残りおよそ2000メートルと張った声で告げる凛。
少しずつ飛び立った付近が目視出来るところまで下がってくる。
ヴァージニアが飛翔したことに未だ気付かず探索を続けている魔族兵達も、親指サイズにまで近付いていた。
これがシミュレーションRPGやボードゲームの駒ならどんなに気楽たったのだろうか。
しかしながら例え広がっている世界が模型に見えようとも、これは現実でありこれが真実なのである。
「少し我慢して。必ず助けるから」
『待ってる…………』
「うん! 僕を信じて」
『…………天国には父様と師匠達が待っているっちゃよ』
「そっちかーい! ってか、ヴァージニアさん諦めるの早!」
その間にもハルトと凛の二人がかりで、無事に着地する手掛かりをスキルへ求めた。
「重力や風を操れたら楽勝なんだけどなぁ」
『空も飛べないし。反動を活用した波動系も無理』
一番この場で必要な重力系は、残念ながら副作用が死活問題なので使用出来ない。
無論、飛翔系も同等であった。
まるでゲームバランスの都合によるストーリー序盤で導入される使用禁止みたいだったが、人間というものは駄目なら駄目なりの打開策を模索する。
特に天才と呼ばれる部類。
結果、人類は宇宙にまで進出することになった。
至極当然ながらその卓越した一員であるハルトと凛が、このシチュエーションで指を咥えて傍観している訳もない。
「炎系なら可能だけど波動系よい威力は弱い。水や氷もこの距離からだとゲージが維持できないから却下だ」
『身体強化系は役に立たない。なら、特殊系はどうかな。デプリとか技キャンセルとか無敵時間延長とか先行入力とか………………無理か』
手当たり次第スキルを次々と却下している。
「くそぉ、全く見付からないよ。何か方法がある筈なんだ。閃け僕の脳細胞!」
今こそ糖分多量摂取した脳がフル可動する時だと、自分自身に発破を掛ける。
『ハルちゃん。もうそろそろ敵の目に留まっても可笑しくはないよ!』
「分かっているけど、案が浮かんでこない」
『なら、いっそう発想を変えてみようか? 発想の転換って奴だよ』
「発想?」
『うん、そうそう発想、アイデア、インスピレーション』
回答が全て外れて悲壮感漂っていたハルトに、長年のコンビである凛は新たな可能性を示す。
「長瀬さんどういうこと?」
『スキルを使う事が全てじゃないって事だよ」
「沼に着水とか?」
『それも良いけど、それだと賭けになる』
「それじゃあ、降参して助けてもらう』
『面白いけどそれもバッド。いい、ハルちゃん、よく聞いて――――』
長瀬凛はここにある可能性を指摘。
そしてハルトが構築しているであろう作戦を見事言い当て、これに組み合わせてみせる。
途端、神ハルトは活力が戻ってきた。
積んだ盤面に神の一手が輝きを放ったのだ。
「――――なんてのはどうかなかな?』
「そうか、何でそんなこと思い付かなかったんだ!? ゲーマーの基礎じゃないか! でも、これが使える。男爵とカメレオン相手にでも勝てる!」
『バカー! 無事に着地する方が先だっぴょん!』
派手にガッツポーズを決めているハルトだったが、時と場合を選べとヴァージニアに嗜まれた。