バニー・イン・ザ・スカイ
「うん、作戦はもう頭の中で何通りか構築しているよ。でも……」
ハルトは言葉を濁した。
まだ、決定稿に至る至高の一手を決め倦ねいていたからに他ならない。
原因は勿論、二人の魔王軍の指導者。
一人はシャセキ、弁舌の達者な参謀タイプ。
獅子王騎士団の主力である重装騎馬軍団を、千騎だけだが舌三寸を武器に一瞬で壊滅させた。
その恐るべき頭脳と度量をハルトは警戒した。
奴が黙って手をこまねいている事は想像つかない。
そしてもう一人、ヴァージニアの親として騙し続けた偽りのシュレリア男爵だ。
転生の魔石という謎の力で、殺した男爵に魂を移し、経験と記憶と力をそのまま受け継いでいる。
魂は違えど、即ち圧倒的な経験値を積んでいる歴戦の軍神が、ハルトの倒すべき敵なのだ。
『――ねぇねぇ、ハルちゃんハルちゃん。ルックルック。それより落ちる速度が何か早くなってない?』
『変態、地上へ引っ張られる感覚が幾分かました気がするぴょん!』
「………………………………本当だ。重力に引き寄せられているんだよ」
二人の声が深層にあったハルトの心を表層へと一気に戻す。
高速エレベーターどころか軌道エレベーター並みの速度だ。
『もしかして私の剣が重量があるからかぴょん?』
今は父の形見になった重たいグレートソードを背負っている為、体感的に心なしか落下スピードが加速している気がした。
「その割にはヴァージニアさんは落ち着いているよね」
『私はお前を信じていているからだっちゃ」
「ありがとう。でもごめんよ、………………誠に言いにくいのですが、着陸まで計画にいれていなかった…………」
ハルトはそこまで考えてなかった。
ハルトはそこまで熟考しなかった。
ハルトはそこまでシンキングしなかった。
事実、衝動的に罪を犯す者は本当にその時まで何も計画していない。
そういうわけで、『いやああああああああ! 馬鹿馬鹿馬鹿、死ぬ死ぬ死ぬうううううだぴよん!』信用を裏切られた哀れなロリータは再びパニックへ。
「ヴァージニアさん、ちょっと待ってて。何か対策を考える!」
『変態、早く早くうう! その不思議な力で何とかしろだぴょん!』
こんな時でも副作用の効果は無情にも継続中。
このまま速度が上がると危険と認識したハルトは、慌てて再びスキルパネルへ手を置く。
「やはりここは防御力強化かな」
『ハルちゃん、この高度から落ちたらダイヤモンドでもダメージ受けるよ』
「じゃ、またジャンプは?」
『良いアイデアだけど地面は一体何処にあるの?』
ハルト達は気ばかり焦って、テスト終了五分前のように中々考えが纏まらなかった。