ゲーマーに不可能はない
大地を蹴りあげた大ジャンプは推進力が途絶えたところでゆっくりと降下し始めた。
操縦桿でヴァージニアを操り、横に広がりバランスを取りやすいように大の字になる。
大空を飛ぶ鳥は自由だと誰かが言った。
そう、上空では重力に掟のように縛られてる地の上と違い、前後左右以外に上下も加えた全方位の動きが出来る。
ただ、生身のヴァージニアには残念ながらロケットエンジンが付いていないので、やはり神が創った法則には逆らえず落下するだけだが。
ハルトもモニター越しだが全方位型で丸見えな為、解像度が優れている分、内心はヴァージニア以上に恐怖を感じていた。
しかしながら、それ以上に心を占める使命感と考古学並みの好奇心がせめぎ合っていたので、第三勢力に甘んじている。
ならば諸葛亮ばりに出師の表と共に北伐が始まらない事を祈るばかりだ。
『そそそれで変態、ここからどうするんだぴょん! またあの低空飛行作戦か?』
『ホーミングミサイルを一斉発射すれば一瞬で終わるのになぁ』
「それはちょっと…………」
凛と同意見のハルトだが、とりあえずバレてはまずいのでヴァージニアへと話を合わせる。
あと無論だが、ただのポンコツ少女騎士に光学兵器とか爆撃とか、そんなロボット兵器の芸当など出来るわけも無しと付け加えておこう。
『でも、あれが確実だぴょん!』
ヴァージニアは大勝して味を占めたのか、自信たっぷりに候補として推薦してくる。
「うん、本当は多数を相手にするからそれで仕留めるのが一番なんだけど、今回は前みたいに密集していないから使えない。それに曲がりなりにも歴戦の勇士シュレリア男爵が陣頭指揮をとっている。浅知恵の奇襲戦法じゃこっちがチャックメイトさ」
低空飛行作戦とは、前回戦ったオーガのソンゲン達相手に使ったハルト考案の奇襲戦法だ。
相手が森の狭い空き地に密集陣形を取ったお陰で、ヴァージニアの腕力とハルトの操縦テクニックで敵を大いに翻弄。
同士討ちにして自滅へと追い込んだ。
しかし数的には同数だが、今回は状況が違う。
昼間の完全に視界が開けた戦場。
シュレリア男爵とシャセキ、頭の切れる有能な指揮官が二人。
生半可な奇計では、簡単に返り討ちにあうのは必定であった。
『でも、変態、何とかするんだぴょん?』
『でも、ハルちゃん、何とかするんだぴょん?』
ダブルヒロインは仲良くユニゾンした。
可愛い声でシンクロした。
これで互いに意志疎通していないなんて、世の中は不思議な事で溢れている。