イッツワンダーホー!
『イッツワンダーホー!』
インカムを通して長瀬凜の和菓子のように甘さ控えめで上品な声質が聴こえる。
言っていることは見事にアメリカンだが…………。
目覚めると同時にヴァージニアへバレないよう、テレビから声だけに切り替えていた。
映像だと見知らぬ女が映っていたらパニックになりかねないと彼女なりの配慮。
この文面にある矛盾、何故、少女騎士が操縦席内を認識出来るかはこの際置いておく。
この物語はファンタジーなのだ、何の不思議もないと付け加えておこう。
現在はヴァニシングライダーの仕様であるネットを介して見られる映像視聴サービスで、直にモニターで観賞している。
それでその第一声があれであった。
確かに遠くには空飛ぶ島とか、天までそびえ立つ塔とか、好奇心旺盛な者にとってはパラダイス。
それでハッスルしないのは人生の無駄遣いだろう。
加えて、
スキル 跳躍力UP
課金スキル身体能力強化系の一つ。
特性は説明するまでもない文字通りの効果だ。
ポイントを入れてレベルを上げるごとにジャンプ力が格段にUPする。
これなら背の低いヴァージニアでも、プロバスケやバレーでも活躍出来るのではなかろうか。
で、結局何を驚いているのかというと、マサイ族顔負けのスーパー垂直飛びで穴から脱出したヴァージニアだが、飛翔し過ぎて遥か雲の上。
なので、
『うぎああああ、高いだっちゃあああああああ!』
勿論跳んだ本人も顔面蒼白になっていた。
鳥になった気分と夢心地になるのは極一部。
殆んどの場合が人生諦めちゃうそんな高度だった。
「ヴァージニアさん、暫くの間我慢して」
『むむむむ無理だっちゃあああ! しぬううううう!』
高度が高く風の強さが音声に混ざる。
「今がチャンスなんだ」
『ななな何がだっちゃ!』
「勿論、僕達が勝つ方法を見つける為のね!」
ハルトは操縦桿から手を放し、広大に広がる緑のフィールドを目視しながら、右手でパネルから次のスキルをセットしながら、左手で別パネルを操作し、この戦闘用に操縦設定をカスタマイズしていく。
そう、当然ながらこのポジションからだと敵の全容が丸見え。
しかも幸い太陽を背に向けているので相手にもまだ気付かれていない。
ハルトはこの絶好のシチュエーションを利用して、ゲームで培った経験を元に瞬時にミッションを立案。
そう、跳んだ瞬間からもう既にハルトの戦いは始まっていたのだ。