発進シークエンスは男の矜持
『それからヴァージニアちゃんを早く紹介してよ! ここからだとハルちゃんのカオスな廃ゲーマー顔と土くれしか拝めないから、気が萎える一方なんだわさ』
「それは考えているけど、今は混乱するからやめた方がいいよ」
ええっ! と不満の声を上げる好奇心の塊。
ハルトと仲良くなった女の子に興味津々なのかブーブーとブーイング。
『何で? 何で?』
「じゃ、逆に聞くけど、いきなり未来から子孫が現れたらどうする?」
『あ…………それはびっくり…………そうだよね。それでなくても異世界から来たって言われたって文明が違い過ぎて思考がついていけないかぁ』
察しの良い凛は理解したのか何度も頷いた。
もし適応力の高い彼女がヴァージニアならまた違った展開があったかもしれない。
『ちぇ、折角、ゲームが恋人のハルちゃんがリアル女の子にデレている瞬間を目撃しようと思ったのに。レア、いや、ウルトラレアだよそれ!』
ではその上はアルティメットが付くのかなど、スマホゲームのやり過ぎで変な用語が浸透している自分に嫌気が差した。
「じゃ、景気づけにまたあれをお願いしようかな」
『あれ?』
興奮して前のめりなっていた凛は椅子に座り直す。
「発進シークエンス」
『えー! またぁ!』
「僕はあれがないと発進出来ない。いやさ、したくない」
『もう、しょうがないなぁ』
この男の矜持みたいなノリが今一理解出来ないながらも、長年のよしみなのか凛は嫌々承諾。
何故なら子供みたいな変な拘りをもつこの少年に命運が掛かっているのだ。
なので、助手になりつつある現状を嘆きながらも、凛はファンタジー世界に続く未知への遭遇という誘惑には購えまい。
今後、見えを切る動作用に爆炎魔法も習得させられるかもとか、合体ロボ用のゴーレム製作とか、させられそうな無理難題が脳裏に幾度となく去来、ハルトには不可能と訴えるが本当に考えいたので無言だった。
「ヴァージニア、コンディションオールグリーン」
ハルトはコンソールを触り各機能を最終確認した。
『ゴットハルト、発進どうぞ!』
滑走路はないのだがこの際関係ない。
全く意味のない行為だが出来れば男子としては何でもいいのだ。
「壱号機 重量型ヴァージニア・ウィル・ソード、神 ハルト出るぜ!」
『………………ちょっと待てぇぇぇえい! だから私は太ってないっちゃああああ!』
王子様のキスは無いが、お目覚めのプリンセスは寝起きが悪いのかご機嫌ななめだった。