ソックスの誘惑
「あー! だから、だから、埒が明かないだっちゃよ、ここはお互い妥協するべきだ!」
「同感、ここは間を取ろう」
焦っているのは分かるけど、それはさっきも口に出しただろうと言いたかったが、ヒステリックに地団駄踏んでいるヴァージニアへ八つ当たりで命を捧げるつもりはなかった。
「じゃあ、お互い何を求めているのか纏めるだっちゃ。私は直に触りたくも触りたいともない。逆に変態は接吻したいまたはして欲しい」
「これをどう折り合いをつけと?」
「頭を捻れば見つかるかもしれないだっちゃ」
「残念ながら屏風から虎を召喚するトンチは持ち合わせてはいないよ。そんな悪知恵が働くのならMMOで大活躍だ」
こんな全くの真逆の望みに妥協案はあるのだろうかと両者とも困惑する。
「もう時間がない、とにかく私達の望みの真ん中で手を打つだっちゃよ」
「ヴァージニアさんがそれで良いのなら」
「それなら案を言うだっちゃ。私はそれに従う」
武器防具系はもう試した。
となると、
「いいの? 単純にその間をとったらヴァージニアさんのソックスに直にキスになるよ」
「……………………………う、ちょ、ちょっと待て! 何でそうなる!?」
「防具系は効果がない。となると身に付けている衣類になる。でも、鎧を脱いでいる時間もない。となると答えは一つだよ」
「待て待て、それは変態プレイだっちゃよ! それだけは止めてくれ。実際、大商人のおっちゃんに大金払うから生ソックス売ってくれと請われたっちゃ。それ以来トラウマに…………」
言った側から待ったを掛ける少女。
ちなみにこの文明にソックスがあっても大人の都合なのでオフレコで。
「ああ、同じ男だから気持ちは分かるっ――――て、そこ、引かない引かない」
静かに抜き足差し足で後方へ距離を空ける騎士。
こんなところに剣術の技を披露しなくても良いのではとも思うが、男女がこんな暗がりの密室で二人きり、例え戦闘中であっても無くても間違えが起きる可能性は十分にある。
「じゃ、私のガントレット貸すからちゃっちゃと済ますだっちゃ」
「行為がなんか近くなるところが遠くなってませんか?」
「気のせいだっちゃ」
外した手甲を渡そうとまた近づく。
(さっきからダンスのように行ったり来たり、僕らはこんな事で何をやっているのやら)
漸く事の虚しさを解ってきたハルトは、もういっそう強引に行こうかと頭を過ると、
『――ええい! 焦れったい! 焦れったいよハルちゃん! ここは男なら壁ドンでしょうが! 壁ドン! ここは押しの一手でしょうがぁ!』
突如、常時装備している小型ヘッドセットから聴こえる聞き慣れたボイスに、「あれ……」驚いた拍子に石につまずいて、そのまま合法幼女のお手々へダイビングキス。
「あ!」
ヴァージニアが小さく驚くと同時に、再び何も無い空間からコックピットがせりだしてきた。
相変わらずハルト専用の『4号機』と書かれた張り紙がこの世界観に合わず滑稽に映る。
「……………………」
また、同時にヴァージニアは時が止まったように沈黙。
また、同時に王子様は少女だけでは飽き足らず大地にも教皇顔負けの接吻をした。
追加で、同時が沢山あるとレースは成立しないのでここはほぼと後付けする。