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疑心暗鬼


「…………………………」


 ヴァージニアは一呼吸置き掛け替えのない存在へ目線を送る。


 幼少時から常に目に焼き付いている、鎖帷子の上から獣の革を何重にもなめして固めたレザーアーマーを装備。

 腕には頑丈なアイアンガントレットを付けていた。

 接近戦を得意としていたらしいので、下手な盾よりずっと使い勝手が良い。


 言いたいことは山ほどあるのに、肝心の言葉が出てこない。

 眼光は鋭く父を突き刺すように睨むも、信頼していたものを失った悲しさで、涙が止まらなかった。

 今でも心の中では善悪分かれて葛藤している。

 親子の関係とはそんな簡単に割りきれるものではなかった。


 それに今まで確信が持てなく長く心に留め置いたとある仮定が現実味を帯びていた。


「父様、貴方は本当に父様何だっちゃよね?」 

「藪から棒に何を言うのだ? 俺はお前の父だ」

「いや、………………違う、お前は父様じゃない、誰だっちゃ?」

「何を言っている。どう観察しても俺は俺だ。この顔の傷もこの野太い声も何もかも」


 男爵は偽物説を否定。

 この身は本物とアピールするように両手を広げる。

 

「そうだっちゃ、戦争から帰ってくる度に傷が増えて私は泣きじゃくった」

「ああ、そうだ。そのつど俺は慣れるまで娘の側にいた。それでまた泣いた。最後は妻がキレて出入り禁止になったな」

「うん」

「ならこれで疑いは晴れたのかな?」

「いや、…………記憶も姿形は確かに父様だっちゃよ。でも、何かが違う」


 今まで共に暮らしていたのだ、その事は自身が真っ先に理解していた。

 そして自身が一番訳分からなくなっている。


「何故、そう思う?」

「父様は普段から師匠に憎まれ口叩くが、それは親愛の証だった。でも、今は違う。まるで他人行儀、まるで害虫でも気にかけているみたいだ。それに昔たまに出ていた地方の訛りがない」

「細かい所までよう見ている。とても大雑把なシュレリア男爵の遺伝子を受け継いでいるとは思えないな」


 急な傾斜や大きな障害が少ない草原の強風がヴァージニアの髪とシュレリア男爵のマントを長く揺らす。


「……………………………」

「……………………………」


 威嚇、または牽制するかのような暫しの沈黙。

 大空の覇者大鷹が鳴き声をあげて、二人を分かつように真ん中を通っていった。


 やがてその沈黙も、「………………がはははははははっ! そうか、ばれないように修練したのだがなぁ」この一言が破った。

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