これが戦(いくさ)の習い
「弱い。されど今回会った人間の中で1番勇敢だ。ならばこのバクリュクキョウの武勇伝に加えるのもまた一興なり」
鍛え上げた二頭筋が動き、愛刀の刃を上から下に位置を切り替える。
極度の緊張で小さき勇気ある者は無意識にごくりと喉が鳴った。
「だが、お前は子供ましてやおなごだ。今ならその勇敢さに免じて見逃してやるぞ」
「馬鹿にするなだっちゃぁぁぁ!」
懐に入ってきた渾身の一撃を、寸でのところで足は動かさず、僅かな体移動だけでかわす。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというが、戦場の殺し合いの場では勇気と経験値の差が全てだ。
即ちここでバクリュクキョウとヴァージニアの死線を越えてきた数が、ハッキリと形になったのだ。
「当たらない?」
「馬鹿が。すばしっこいだけなら、ウサギより劣る」
「げぼっ!」
ヴァージニアをサッカーのフリーキックの様に横から蹴りあげた。
平時ならば水滸伝の高俅と同じく蹴鞠で立身出世に違いない足さばきだ。
「まだだ!」
横払い。
縦一文字。
下段横払い。
死物狂いに父から預かった剣を振り回す。
しかし、戦々恐々としているのか、ヴァージニアは基本の型がなってなかった。
加えて大型の剣では振りが大きく、熟練者相手では一当ても出来ない。
その圧倒的な実力の差から、あたかも童をからかうがごとく弄ばれ、激しい攻の乱舞を披露も、「たわけが!」一切合切避けきり、戟の柄で頬を殴ぐる。
「ぐふっ!」
そのまま地面に押すように叩き付け、丸太を彷彿とさせる尻尾で豪快にスイング、ピンボールの如く弾いた。
ヒットターゲットが複数配置されていれば高得点が出ていたかもしれない。
「その剣を理解していない貴様に勝ち目はない」
「私は負けないだっちゃあぁぁぁぁ!」
機転で剣を大地に刺し勢いを削ぐ。
人形を思わせる端整な顔立ちが一部歪み血みどろになりながらも、朱色の液体を吐き捨て、また気力だけで立ち上がる。
「ほほう」
バクリュクキョウはこの気迫ある少女を前にある思いがよぎる。
連れ帰って養女として鍛えるかと。それで改めて死合うかと。
それほどまでに武人を魅了する何かを、このヴァージニアには持っている気がしたのだった。
「――ひやあぁぁぁぁ!」
「……ふん」
偶然なのか必然なのか、近くの岩陰に隠れていたゴスロ伯はバクリュクキョウと視線が合う。
咄嗟に全てを置いて敵と逆方向に駆け出した。
自分の無力さを恥じながら職務放棄、尻尾を巻いて逃げたのだ。
「こんな子供に戦わせておいて、武人の貴様は逃げるのか!?」
誇り高き武人リザードマンの戟がしなり舞う。
力ずくに振り回し唸る。
旋風にて粉塵踊る中、勢い付いた戟から放った真空波によって、遠くにまで離れた臆病者を一瞬で真っ二つに断った。