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親子の決別


「暗部よ、もし娘を転生させるのなら魔石がある」

「お気遣い無用。記憶を受け継いでいても仕事と割りきっておりますれば」


 と、シュレリア男爵は返り血を引き抜いた侯爵のマントで拭い取り、「ヴァージニアよどうした。剣を捨ててこちらへ来なさい」一歩一歩愛娘へと足を進める。


 動く度に鎖帷子の擦れ合う音が、ヴァージニアの鼓動に連動しているみたいに一致していた。


「父様来るなだっちゃ! 魔族に寝返った納得いく理由を聞くまで信用出来ない」

「ふ、流石は我が娘。父より王国に忠義を尽くす、これぞ武人であり騎士なり。だがな、これも領地を守る為なのだ。民を命を守る事こそ領主の真の勤め」


 男爵は正論を説く。

 領主とは領民の安寧を維持するのが第一の使命なのだ。

 その代価として金や作物を徴収。

 この関係に国は関与しない。


「では、皆を救うために魔族側へ付いたと言うんだちゃか?」

「そういうことだ。王国へ忠義だてして肝心の民草を蔑ろにするのは貴族としては失格だ」


 もっともな意見だ。

 いつの世も、弱き国民は為政者に摂取される。

 農民に至っては着るものも満足に出回っていない有り様。

 全て貴族の使い古しのを買い何代にも渡って使い回している始末だ。


「父様の言っている事は正しい。確かに王国は王族貴族による圧政で皆の暮らしが悪くなる一方だっちゃ。私も客をもてなす以外、蜂蜜や砂糖だって滅多に口に出来ない」

「なら理解できるであろう? この国に未来はないのだ」


 ハルトへと振る舞った今出来る最大のもてなしを振り返りながら、現状を憂う父の気持ちも理解した。

 しかし、


「…………それでも、それでも私は魔族になんて願い下げだっちゃよ!」

「エドウィン・ランスフィールド、あいつの仇だからか?」

「そうだっちゃ! 師匠を殺した魔族を許すなんて絶対にない!」 

「あやつも馬鹿な男だったな。こんな瓦解寸前の王国の為に無駄死にするなんて、愚の骨頂だ。いや、死んで当然だな」


 そこに感情はなかった。

 この前、報告した時と同様に他人事。


「なんでそんな事言うんだっちゃか父様? 若い頃共に戦った無二の親友じゃないか!」

「……………友か、そんなものは所詮はまやかしよ。世の中は強き者が絶対的正義。そこに友なんて何の確証も持てないものは必要ない」

「父様! 父様を信じて死んでいった師匠に対して失礼過ぎます!」

「失礼なものか。死は神が与えた罰だ。奴が怠惰だった為に招いた結果。即ち死ぬということは愚か者という事だ」


 ヴァージニアは思いを馳せる。

 幼少のみぎり父達と共に馬で駆けた。

 そこには本音が飛び交うが、互いに信じあった親友であり高め合うライバルであった。

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