裏切りのシュレリア男爵
いつの世も世界は常に弄ばれる。
強者の手によって玩具にされる。
されど生物とは往生際が悪いものだ。
最後まで悪足掻きするようにプログラムされている。
そしてここにも一人、運命に購うものあり。
大剣携えて孤独に多勢に対峙している。
「……………………」
たてがみ立派な白馬にまたがり、オークとゴブリンの混合部隊を牽制。
それに触発して馬は高らかに一鳴きして威嚇した。
しかし、少女の表情は虚ろ。
何も認識していない虚無感に包まれている感じだった。
「…………父様、なんでなんだちゃ」
「ヴァージニアさん! しっかりしてよ!」
結局ハルトはエンディング通りの展開になり焦りが募る。
事前に阻止できなかった憤りもある。
何よりヴァージニアの精神的ダメージが計り知れず、見ていられなかった。
部外者である自身もいたたまれず、あり得ない光景に目を疑う。
大地には血溜まり、その中央に二つに両断されたホーキンス侯爵だった者が捨て置かれていた。
騎士団を率いていた上位貴族の成れの果てに、ハルトは吐きそうなのを堪えながら目を背け、ヴァージニアは許してだっちゃと神に懺悔する。
「よりにもよって師匠を死に追いやった魔族に味方するなんて、何でなんだっちゃ! 父様!?」
視線はシュレリア男爵へと向け、訴えかけるように詰る。
だが、侯爵を裏切ったというよりは、王国へ反旗を翻ると、とってもおかしくない味方殺しの大罪を犯した父へのメッセージだった。
そこにはバクリュウド付き従事中郎シャセキへ傅き、胸辺りで握り拳をもう片方の手で包む魔族が儀礼法『拝手』をしている男爵の姿が映っていた。
「--今までご苦労であった。暗部の者よ」
「ははっ。ありがたき幸せ」
「全てはこの一戦で完璧な勝利を魔王様はお望みです。人間は一人も生かして返すな」
「ははっ! 魔王様、万歳、万歳、万々歳!」
と、地に頭を付け、本来なら人間側にいなければならない男が魔族にひれ伏していた。
「ところで、そこの童達は如何する? 敵であろうと子供は国の宝、殺すには惜しい。然りとて魔王様の御意向に逆らう事は罪だ。その方なら如何する」
「御心のままに。私は暗部の者。何も考えず指令に従うのみでございます」
「かんらかんら、許せ、情が移ってないか試してみた。流石は陛下お墨付きの特殊部署」
「恐れ入りまする――さて、」
男爵は立ち上りナポレオンに騎乗している二人を見据えた。