しかし、彼女の世界が暗転する
「実に汚い。こんなものは戦いではない!」
「汚い? 私にとっては美徳ですな。戦争は勝った方が正義。兵法に綺麗や汚いなど存在しますまい」
これは文化の違いだ。
騎士は正々堂々のパワー対パワー的な戦いを好む。
逆に魔族は勝った方が正義という考え方が主流だ。
現実世界でもその傾向が強い。
有名なのが宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘だ。
武蔵はわざと仕合に遅刻して相手を苛立たせ、小次郎が鞘を捨てたことを野次り、二刀流で虚をつく。
更に砂を蹴って目眩ましもした。
最後は太陽を背に小次郎の脳天を割り勝利する。
汚かろうが生き抜く為の兵法。
この一連の策も連環の計と言えなくもない。
一方、ヴァージニアは敵に気取られないように相棒に話し掛ける。
変態、私と戦うのもう一度頼めるか?
合点承知の助……と行きたいところだけど、衆目の中ではやりたくないなぁ。
凜との約束だった。
安易に敵に手の内を見せるなと。
そしてそれはヴァージニアにも伝わったのか、「ここここの変態! シチュエーションも大事だなんて何処まで卑しい豚野郎なんだっちゃ! 接吻ぐらい何処でも良いだっちゃよ!」いや、訂正、声を大にして勘違いしながら頬を染めただけであった。
接吻とな?
昨日、変態が言っていたっちゃ。私とリンクするにはききききキスしないといけないって。
そう、ヴァージニアを操縦するにはコックピットをオープンさせないといけない。
そのキーが相手との接触。
要は接吻だと言うことが長瀬凜の指摘で判明。
彼女は乙女、意識しない方がおかしい。
「ごめん、そうじゃなくて――――」
「わ、わしをどうするつもりだぁぁ!?」
しかし、訂正する前にホーキンス侯爵の怒声で掻き消された。
「私の真の役目は貴方様を消す事。これで敵総大将ヴァン公爵が起死回生を仕掛ける可能性を潰す事が出来るのでござる。ですが、この先我等に従うのであれば、スパイとして生かしておいてもよい」
「……………………………………」
侯爵はシャセキを睨みながら眉間にシワを寄せて暫し沈黙。
決断または判断が出来なかったのだろうか即答せず、口に溜まった唾を一気に飲み込んで、
「…………………断る。魔族に魂なぞ売るものか! 男爵頼むぞ! わしは何がなんでも生き延びなければならない! 後で金なら沢山払う」
男爵は何も言わず剣を抜き、「それは有り難き幸せ――――しかしながら侯爵様」馬を降りてホーキンス侯爵へと再び寄り添うが、
「残念ながら、貴様はもう用済みだ。ここで死んでおけゴミめ」
片手で重量のある両手剣を真横に振る。
「ぎゃああああ! シュシュ、シュレリア男爵、何を!」
男爵の豪剣が一瞬で、侯爵を鎧ごと上下に分断された。
無造作に振り下ろした剣には血が滴る。
「何をいているんだっちゃ…………父様?」
ヴァージニアは男爵が何をしたのか、思考が追い付くことが出来ず、静かに剣を地面へ落とした。