そして放たれる矢の如く
(どうなっているんだ? 確かにホーキンス侯爵に人望が無いのは分かっているけど、裏切ったから仲間割れ? ……待て、いや違うな………………もしかして僕は勘違いしていた? 前提が間違っていたんじゃないのか。侯爵が王国を裏切るんじゃない。侯爵の部隊が侯爵を裏切るんだ!)
そう、ハルト達は予想を間違っていた。
裏切ったのはホーキンス侯爵軍の騎士達。
そしてこのままだと巻き込まれる事も想定する。
だが、ヴァージニアに避難を促すも、父が心配なのか手綱から手を離していた。
「アスロン辺境伯、皆を止めよ!」
沈黙していたホーキンス軍のNo.2に侯爵は説得するように促す。
しかし、
「ホーキンス侯爵閣下。残念ですがもう、貴方の演技に付き合ってられません。今ので魔族と裏で繋がっているのは明白」
「おぬしまで何を根拠にそんな絵空事を語っているんだ!」
「それは貴方の日頃からの態度や行いで十分かと。そんな最下級のソードを側に置き他の貴族を蔑ろにする姿勢、とてもではないが命を預ける主に相応しくないですね。この密談も状況次第で魔族に我等を売るつもりだったのでしょう?」
と、アスロン辺境伯はワーカメレオンのシャセキを訝しく見下ろす。
とても信頼に当たるとは思えないといった感じで舌打ちした。
侯爵も何とか取り繕うとするも、もはや聞く耳を持ってはくれなかった。
「このまま犬死にするぐらいなら騎士らしく戦死した方がましだ!」
「待て辺境伯! 言うことをきかんか!」
「話にならん!」
辺境伯は決別を突き付けて、未だにざわめいている兵団へ向き直る。
「これよりこのアスロン辺境伯が指揮を執る! この臆病侯爵に我等獅子王騎士団の力を見せ付けてやるのだぁ!」
「「「おおおおーーー!!」」」
騎士達の中に異を唱える者は誰もいなかった。
常日頃から嫌われているのが窺える。
あまつさえ、ここにいるのはシュレリア男爵とヴァージニア+ハルト以外アスロン辺境伯派。
事を起こすのなら合流前の今しかなかった。
「あいや待たれよ、待たれよ。私は交渉に参っただけ。お主達をどうこうするつもりはござらんよ」
シャセキもおのが言い分を述べるも、何処かわざとらしく、外野であるヴァージニア達にでさえ嘯いてるように聞こえる。
「わざとなのか本心なのか、まるで牛を挑発している闘牛だね」
「でも、そんな事して何のメリットがあるんだっちゃ」
「そうだよね。下に罠でも仕掛けていない限りあり得ないよ」
「うん。あんな草原に罠なんて出来っこ………………あ!?」
ヴァージニアの言葉が途中で止まる。
同時に財布を落とした時のように可愛い顔がみるみる顔面蒼白になった。