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変事の前触れ


「戦いとは剣と剣を交える事ばかりではない。交渉も立派ないくさなのだぞ」

「いやいや、その通りその通り。論客こそ戦の要なり。侯爵様は分かっておいでだ」

「では?」

「うむ、侯爵という地位は実に美味い。王にも直に面会が可能でござる。しかしこれは難しいですな」


 と、上目遣いに伺う。


「なぜじゃ? わしでは役不足と言うのか?」

「いやいや、そうではござらぬ。そうではござらぬ。ここには貴方一人ではないという事です。他人の口に戸は建てられません。さて、これに対する答えは如何に?」

「そ、それは……………………」


 ここで初めてホーキンス侯爵は言葉に詰まった。

 この問いに正しい回答を持ち合わせていないのか、額から脂汗が滲み出る。


「何が言いたい?」

「我が国には崇高な目的の為なら、例え夫婦でも親友でも親でも殺す暗黙のルールがあります。言いたい事は分かりますな?」

「下らぬ、その手には乗らんぞ。同志を売ればそれだけでわしの風評が下がるわい」


 これに対してのホーキンス侯爵の真意は別のところにあるようにも窺えた。

 

 そして、それはハルトにも伝わる。


 これはまずいのではないのかな…………。

 ホーキンス侯爵の一手を逆手に取られた、このままじゃ僕らは危ないと、再び長瀬凜がもたらしてくれたデータに目を預ける。

 予想が大きく外れだしている事態に対案が書かれていないか一字一句読み込んだ。


(おかしい。侯爵が裏切らない。エンディングでは侯爵軍が裏切るって出ていた。僕がいるせいで歴史が変わったのか? それだと、ここから先が見通せない。それに何だか騎士達の様子が変だよ?)


 その間にも貴族達の動揺が広がっていった。

 ノイズにも近いざわめきが尚一層強くなってくる。


「ヴァージニアさん」

「………………………………」

「ヴァージニアさん」

「………………………………」


 相棒の呼び掛けにも応じず、沈黙を守っているヴァージニア。

 彼女もまた様子が変だった。

 巣を守る獣の牝の如く、先程からしきりに周囲を見渡しているからだ。


 業を煮やしたハルトは小さき騎士の綺麗な金色こんじきの髪を鐘を鳴らす要領で引っ張る。


「いたたたた! 痛いっちゃ!」

「ヴァージニアさん何か嫌な予感する。ここから離れようよ」

「何を言っているんだっちゃ?」


 乱れた髪を撫でながら聞き返す。

 しかし気付くべきた。

 癖毛なので幾ら手櫛してもストレートにはならない事実に。


「参謀がここに現れるということは、何かの策があるということだよ。それに騎士達が変だ」


 気取られないように目をやる。


「そっちも気になるけど、そんなことより、なんかこの場所に違和感があるんだっちゃよ」

「違和感?」

「そう。この丘は昔ナポレオンに乗って来ていた所だけど、久々に出向いたら何処かがおかしい」


 そう言うと光で輝く眉を潜め、思い出そうと呻くように頭を抱えた。

 人間とはそんなに都合良く記憶を引き出せない生き物だという事を改めて実感する。

 

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