エンディングテロップは的中する
「あああ、しっかりして! ヴァージニアさんがショートしてポンコツになったぁぁ!」
「ははははやはや、早くととと父様にしし知らせないとととと!」
「どうした我が愛しい娘よ。何を慌てふためいている?」
ヴァージニアの異変に気付いた男爵が声を掛ける。
動揺でスーパーボールのように反動が止まらない体を頭から押さえつけた。
「とととと父様、魔族だっちゃ! あああああそこにいるのはままま魔族の軍勢ですですですですです!」
「…………そうか」
「なななな、なんだとうおぉぉぉ!」
しかし、過敏に反応したのは隣にいた侯爵だった。
大将が動揺すればそれだけで部隊の士気に影響が表れる。
ハルトは指揮官としては無能だと改めて認識。
「何かの間違いだ! 大体こんな所から見える訳がない!」
「いえ、残念ながら言っている事は真実でしょう。ヴァージニアの視力は鷹の如く良いのですよ。ここで育ってますから遥か先まで見通せます」
と、シュレリア男爵は他の騎士達に悟られるのを恐れ、侯爵達を促し少し隊列から離れた。
「何故だ。どうして魔族がいるのだ!?」
「ホーキンス侯爵様、どうやら待ち伏せされていたようですな」
「わ、わしらの情報が漏れていたのか……?」
「恐らくは傭兵が金に釣られて敵に漏らしたものと考えるのが妥当かと」
「なんということだ、なんということだ」
オペラの大袈裟なリアクションに影響されているのか、ホーキンス侯爵は呆然と救いを乞うように天を仰ぐ。
金の繋がりしかない傭兵が裏切るのは世の常。
傭兵は所詮はよそ者、更に愛国心の欠片もない貴族達といい、黒龍を倒した最強の騎士団はもう絵本の物語にしか居なかった。
(本当に待ち伏せしてた。じゃ、エンディング通りに行くと、この先待っているのはこの侯爵の裏切り。このイベントがターニングポイントか……)
ハルトはバッドエンディングがこの場所を示している可能性が高い事に気付く。
だが、驚いているのは他にも理由がある。
長瀬凜がバッドエンディングを元に予想を立てていたのだ。
ハルトはもう一度、スマホに保存されている文面の一部を読み上げる。
ゴットハルトがこの世界に嫌気が差して離脱後、父が所属する侯爵軍と合流したヴァージニアは、軍の再編成で先鋒隊に組み込まれる。
だが、突如侯爵軍が魔王軍に寝返り孤立無援に陥る。救援が駆けつけた時には既にヴァージニアは事切れていた。
ここから凜はこれから起こるであろう事態を数パターンに分けて予測。
その量は50000字に及ぶ。
もう、ミニ予言書に近かった。
そしてこれから何が始まるのかも凜は書き記している。