油断大敵
「あれがそうか。何処の貴族でしょうな。残念ながら軍旗はありますが、ここからでは確認出来ない」
「うんうん、何であろうといい。あれだけいればわしは生き延びられるだろう」
シュレリア男爵が指す方角の先には軍隊が陣を形成していた。
その横では侯爵が安堵して何度も頷く。
「変態、もう少しで休憩出来るだっちゃ」
ヴァージニアはそんな侯爵の楽観主義に呆れながらも、内心はハルトを休ませる事が出来るので安堵していた。
「集合場所にもう他の部隊が集結しているから?」
「そう、結構人数多いだっちゃよ」
「でも、他の騎士さん達も油断しまくっているけど、こんなに早く気を抜いて良いのかな? 楽しみにしていた分、イメージと掛け離れてドンドン僕のナイト信仰が雪崩を起こしそうだ」
「まあ、経験豊富な父様が反対しないのだから心配はないだっちゃ」
それは説得力あるなと、あの地獄の閻魔も裸足で逃げてしまいそうな強面を眺めていると今度は寒気がしてきた。
「それは素晴らしい。男爵しか頼りにならないのも困りものだけど……」
「確かに……。そう言われると不安になってきた」
「まぁ、向こうの人材に期待だね」
「うーん、侯爵様の人望じゃあまり集まらないと思っているっちゃ。師匠が金を渋る奴に兵は命を預けないと言っていたからね。だから、あの軍勢もそんなに信用出来ないかも」
横目で見ながらヴァージニアは、ケチで有名な侯爵に見返りを求める騎士達がいるこの不思議空間に違和感を覚えた。
そしてこの疑問は、「あれ?」やがて確信へと変わる。
地元民は目を擦りながら、そんな馬鹿な事があるわけがないっちゃと、自慢の視力で遥か先の光景を何度も何度も見直した。
「どうしたのヴァージニアさん?」
「………………………………変態、大変だっちゃ!」
「面白くないよそのギャグ…………」
「あれは魔族。魔族だっちゃよ!!」
「ええ!?」
ハルトは眼を見張る。
ゲンコツでこさえたタンコブを擦りながら。
直ぐ様取り出したミニハンディカムでズームした。
その画面にはゴブリンやオーク等、魔王軍総勢約五千の軍団が兵を展開。
Vの布陣を敷いていた。
驚いたがそれより、何処かで見たことのある陣形にハルトは呻く。