ゲーマーが見た風景
それに馬のこれからの負担を考慮すると、少しでも長く休憩をとらなければならない。
長時間の行軍に重さに耐えられず死ぬ馬も出てくる。
重装騎馬の負担はそれだけ重く、代えも僅かなので、騎士の根幹である騎馬はどうしても第一であった。
千の騎馬は壮観で、兵の士気が上がり心を強く鼓舞。
だが、統制がとれてないのでハルトには揺れ動く蛇にも映った。
「まだ、気持ち悪いだっちゃか?」
「ヴァージニアさんありがとう。大分治まったよ」
ハルトは心配しているパートナーに素直に報告。
景色を楽しむ余裕が出てきた位だ。
「ふん、お前の事なんてどうでも良いのだが、ここで吐かれると私の大事なナポレオンが汚物で汚れるからな」
「そうでやんすか……」
互い軽口を叩いているが、実際は先程の一件があるので何を喋れば良いか分からなかった。
気恥ずかしさと怒りと感謝がマーブルカラーで混同。
珈琲にミルクを混ぜたように渦を巻いていた。
気まずい……僕はあんなに熱血キャラじゃないのだが、何だか許せなかったと、ふと恥ずかしさを誤魔化すみたいに空を見上げる。
眼前には流れてきた雲の影が広大な緑のキャンバスに映り込むが、心が吸い込まれるぐらい美しい情景に呆気に取られて、折角のシャッターチャンスを逃す。
(そういえば長瀬さんが本物の騎馬行進をみたがっていたなぁ。でも、学校の役員が忙しくて拝めないって泣き喚いていたっけ)
後で愚痴を聴かされそうな確率の高い未来予想図にハルトはゲンナリした。
一応律儀に騎士の写真は撮ってあるが、携帯の画質では満足出来ないのであろうと、ポシェットで出番を待っているハンディカムに手をやる。
天国のようなゲーム世界のような普段御目にかかれない浮世離れしたシャングリラ。
コンクリートジャングルから一歩も出た事もないネットチルドレンには、現実からかけ離れたこの広大な空間に意識が持って行かれそうであった。
「都会と違って青空って本当に青空なんだねって…………ん? もしかして怒られていた伝令さんが言っていた軍団ってあれの事?」
丘の遥か先から兵団が窺える。
先の伝令が伝えた所属不明の軍勢が平野に集結していた。
規模は一個師団ぐらいに登るだろうか。
ハルトからの距離からだとチェスのコマに見える。
思わず手を伸ばす動作をするも、当然ながら虚空を舞った。