武の男、リザードマン バクリュウキョウは落胆する
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上が太陽照りつく雲一つ無い美しい蒼天なら、下は死臭漂う重くむせ返す戦場と言う名の地獄絵図。
平時なら見事な自然の造形に言葉を無くすであろう。
しかしながら、阿鼻叫喚が木霊する神の慈悲なぞ否定してしまう処刑場と化した大地のキャンバスは、朱と緑の血のりと、多種多様の先程まで活動していたオブジェに彩られて、不気味な前衛芸術となっていた。
「弱い、実に弱いぞ人間共」
敵の不甲斐なさに喪失感漂う武人が、倒した死屍累々に語りかける様に独りごちる。
全身緑の鱗で覆われている、常に実戦に身を置き鍛え抜かれた屈強な体。
更に鎖帷子の上から鉄製のカードを繋げこしらえたラメラアーマーを装着。
恐竜を彷彿とさせる瞳孔が縦一線の瞳は、映る世界を脆弱と見下し、ワニの様な大きな尻尾は地面を叩きつけた。
リザードマン:モンスターの知名度は高く、数々のロールプレイングで活躍したメジャーな名ザコキャラだ。
魔族兵ではゴブリンと共に描かれる事が多いスタンダードタイプ。
人間に近い知能と汎用性、更に身体能力も抜群。
しかし、強そうな外見と裏腹に、爬虫類系ながら竜族に属さない設定が多い。
緑色のトカゲは、鮮血が滴る1メートルを超える戟を片手に鋭い牙を剥く。
「バクリュクキョウ伯長、リュウカツ伍長及びチョウデン伍長、敵、掃討完了しました」
「ご苦労だ」
「はっ!」
ゴブリンの伝令は左手で右手を包み込み拱手し頭を下げた。
魔王国バクリュクド軍第八遊撃百魔人隊、姓はバクリュク、名はキョウ、あざなはモウハ、この百匹の魔物を束ねる伯長へ伝えに来たのだ。(伯長とは百人隊長の事を指す)
この男は将軍バクリュクドの甥ながら、自らを常に極致に置き伍から自力で這い上がってきた。
今回は特別に気合いが入っており、自分の力を上層部、特に伯父へ見せ付ける為に危険な役目を買って出た。
それがこのゴルダ平原の戦い。
そう、今、人間の王国軍と魔王軍が衝突。
まさに戦争の真っ最中だった。