36話 勝利
俺は分身二体を牢の扉の前に配置して、意識を本体に戻す。
そして目を開けて、
「分かった。そのポーションを飲んで、守護騎士をやめると言おう」
と言った。
相手を油断させるための嘘である。
横にいたミリアが、俯くのが分かった。
この前は守護騎士をやめてくださいと、お願いしてきたが、やめてほしくないというのは間違いない。俺の口からやめるという言葉が出たのは、それがいいと本人が思っていてもショックはショックなのだろう。
早くこいつら二人を倒して、ここから逃げ出して、ミリアを安心させてやらないとな。
「賢明な判断だ」
ミエがそう言ったあと、カンツァスが牢のカギを開けて、中に入り、解任液が入った瓶を渡す。
俺は飲む。苦くてまずい液体だ。
ここまでやれば、かなり油断するはずだ。
俺は目を瞑り、分身の一体に意識を移し、牢の中に突入した。
「!!」
「ミエ様、バリアを張ってください!」
分身の突然の乱入に、二人は驚くが的確に対処をする。
ミエは結界を張り、攻撃を出来ないようにする。
上手く聖女を殺せれば、一気に二人仕留められていいかもしれないと思っていたが、そう甘くはないようだ。
カンツァスは分身を仕留めにかかる。
しかし、前の戦いとは違い動きが読めておらず、苦戦している。
奴はチラチラと本体の方に視線を向けながら、苦し気な表情を浮かべている。
やはり予想通りだ。奴の能力には発動条件がある。
奴は恐らく、人の目を見ることで動きを読むのだ。
ここでは本体の俺の目を見なければ、恐らく動きが読めないのだろう。
本体の俺が目を瞑っている以上、動きは読めないはずだ。
さらに好都合なことに、奴は本体を殺すという選択をして来ない。
人を殺してはならないという教義は、絶対に守らなければならないものなのだろう。それこそどんなに窮地に追い込まれてもだ。
しかし、敵は中々動きが読めないまでも、分身と俺の意識がある分身の攻撃を、うまくさばききっている。下手に時間をかけてしまったら、まずい可能性が高い。ギャレク教にはこいつら以外の聖女と守護騎士がいた場合、救援に来られたら、どうしようもなくなってしまう。
すぐに仕留めねば。
俺は本体に意識を戻した。
そして、一瞬だけ目を開けて、カンツァスの位置を確認。
すぐに目を閉じて、カンツァスがいた場所に、飛びかかった。
カンツァスの腹にタックルが入る。
そのまま、抑え込む。
「ぐっ、離してくださいっ!!」
カンツァスは俺をはがそうとする。
その隙に、分身二体にカンツァスの額を攻撃しろと命令をした。
剣がカンツァスの額に突き刺さる。
声を上げることなく、カンツァスは絶命した。
倒した、これで逃げられる。
俺はミリアを連れて逃げようとする。彼女は何が起こっているのか、まるで理解できていないような表情をしていた。
今は説明している時間なんてないし、担いで逃げよう。
「断絶結界」
ミエの声が聞こえてきた。
周囲が青い半透明色の壁に包まれた。
これは俺を逃げきれなくするための結界ではないか。
「よくもやってくれた。カンツァスはそれなりに使える男であったのに。貴様には拷問をしてやることが確定したぞ。しばらくしたら、ほかの守護騎士が駆けつけてくる。勝ち目はない」
ここに来て、絶体絶命の状況になった。
これは奴を殺すしかない。
バリアを壊すしか殺す方法はない。
やるしかない。
俺は分身と一緒に、ミエのバリアを攻撃する。
かなり硬い。中々壊れない。
「無駄だ。貴様程度の攻撃力で私のバリアを破るには、三日はかかる。それまで援護はくるだろう。諦めるんだな」
そう言われても俺は諦めずに攻撃し続ける。
だが、どうしても壊れそうにない。ミエの言う通り、これを壊すには到底数時間では足りない、三日はかかる。
心が折れかけた、その時、バキッ!! という音が後ろの方から聞こえてきた。
振り返ると、断絶結界にひびがはいっていた。
「何!? 馬鹿な! 結界破壊術!?」
ミエが大慌てをする。
その直後、バキーーン! と大きな音が響き、結界が破壊された。
「助けに来たわよ、リスト」
そう言うイリーナの姿が、俺の目に写った。
 




