32話 敗北
張られた壁を剣で攻撃してみるが、硬すぎて壊せそうにもない
なんだこの壁は俺を逃げられなくするものか?
それプラス外部からの救援も出来なくなるかもしれん。
こんな術はイリーナも使っていなかった。
これが聖女の術ではないか、もしくは使用難易度の高い技か、どちらかであろう。
「カンツァス、やりなさい」
「了解しましたミエ様」
執事服を着た男は、剣を二本抜く。
二刀流であるようだった。
敵が動き出す。すごい速さである。常人に出せる速度ではない。俺の予想通り、この二人は守護騎士と聖女であるようだ。
間違いなくアレスト教のではない。
ということは他宗教の……。
心当たりがあった。エメルテアからものすごく憎まれていた、新興宗教。確か名はギャレク教といったか。
確信があるわけではないが、その可能性が高いと俺は思った。
剣を抜く。一体の分身をカンツァスと呼ばれた守護騎士の方に、もう一体をミエと呼ばれた聖女の方に向かわせる。
「バリア」
分身が来るのを見て、バリアを使う。
五重に張られたバリアが、彼女の体を完全に覆った。一瞬であれだけのバリアを張るとは、もしかしてイリーナ並みか、それ以上の術者か。
とにかくこれでは攻撃のしようがない。
仕方ないので分身を、カンツァスの方へ向かわせる。
分身と三体でカンツァスを攻撃するが、避ける。
とにかく避けて避けて避けまくる。別に、特別スピードが早いわけではない。それでもまるで動きを先読みされているかのように、避けてくる。
そして分身がほんの一瞬だけ隙を作った。
その一瞬をつき、分身の頭に攻撃が当たる。
致命傷を受けたので分身は消えた。
……何かおかしいぞこいつ。今の隙も本当に一瞬で、普通なら気づくことなどないくらいだ。
さっきから俺の攻撃をことごとくかわしてくるし、どういうことだ。
奴は俺の目をじっと見つめてきている。
常に口元をにやけさせており、若干気味が悪い。
連携して挟み撃ちにしよう、俺は分身を奴の背後へと動かそうとした。
そこでおかしなことが起こった。
分身が動く前に、奴が動き出して、分身を動かそうとしていた場所に先回りしてきた。
予想外の行動だった。分身はカンツァスと一対一になるが、あっさり攻撃を回避されて、胸に剣を刺されて消滅した。
こいつもしかして……。
俺の行動を先読みしているのか?
恐らく守護騎士にあるという、特殊スキルで。
それはまずい。
動きが読まれたら、勝ち目がないじゃないか。
俺は動けなくなる。
それを見抜かれたのか、奴は瞬時に移動してミリアの首に剣を突きつけた。
「ひぃ!」
ミリアは怯えて、目に涙を浮かべる。
「終わりです。剣を下ろしてください」
「っく……」
奴らはミリアに用があってきたようなので、殺せはしないだろうが、それでもここは言うことを聞くしかない。おれは剣を下ろした。
奴はそのあと、俺の手と足をロープで縛り、俺を担ぎ上げる。
「ちなみにこのロープは、守護騎士のパワーでも引きちぎれない特別性になっております」
仮に引きちぎれたとしても、ミリアがいる以上抵抗は出来ないので、どうしようもない。
「転送」
聖女のミエがそう呟くと、強い光が発生し、俺は咄嗟に目をつぶる。
開くと大聖堂ではなく、見覚えのない場所にいた。
 




