31話 侵入者
初仕事を終えてから十日間くらいの期間、新しい仕事は入って来なかった。
割と暇だな。
結局敵は隠れるのが上手いため、こちらからアジトを発見して攻め入ることは、中々ないらしい。
守護騎士の特性上、動き回って敵を積極的に狩り尽くすというのは、あまり向いていないしな。それでも大聖女様に仇なすものは、全て消さなければならないということで、役目自体がなくなることはない。
そんなわけで暇を持て余していた俺は、外に出ていた。大聖堂からそんなに離れていない場所で、それも昼であるなら安全である。敵が来る可能性は非常に低い。
何か美味いものでも、ミリアと一緒に食べようと思って、通りを歩く。
「ミリアは何が食べたい?」
「え、えーと……何でもいいです」
その返答が一番困るんだよな。
俺の味覚とミリアの味覚は一緒ではないからな。
仕方ない、俺の食いたいものを食うか。
大聖堂では肉を食べる機会が少ないからな。
近くの店を探すと、肉料理を中心に出しているレストランを発見した。
あそこにするか。
店の外装は結構豪華で、高そうな店である。
まあ、前もらった金が結構残っているし、問題ないな。
「あそこで食おう」
「はい」
俺たちはそのレストランに入った。
席に着き注文する。
俺は肉が多めに入ったシチューを頼んだ。
ミリアも俺と同じのにした。
料理が運ばれてくる。
それを食べた。
うまい。高い金を取るだけはある。
「お、おいしいです!」
目を輝かせて、ミリアはシチューを食べる。
もしかしたら、彼女はここまで美味い料理を食べるのは久しぶりか、もしくは初めてなのかもしれないな。
ひさびさに肉をいっぱい食べられて、満足した俺は店を出て大聖堂に戻った。
○
ザワザワザワザワ。
大聖堂は何やら騒ぎになっていた。
騎士たちが忙しなく動き回り、そのようすをシスターや子供たちが心配そうな表情で見ている。
「何があったんでしょうか?」
「分からん。聞いてみよう」
俺は近くを通りかかった騎士に、何でこんなに騒がしいのか理由を尋ねた。
「いや、それが不審者がこの大聖堂に、侵入したみたいなのですよ」
「不審者?」
「ええ、明らかに変な格好をしていたので、尋ねてみたところ、聖女様を寄越せと、脅してきたそうです。明らかにおかしかったので、追い払おうとしたら、大聖堂内に侵入してきたのです」
「どんな奴らなんだ」
「二人組の男女で、顔を隠すような出で立ちだったようです」
「これだけ探しているってことは、まだ見つからないんだな。イリーナたちも探しているのか?」
「いえ、侵入者の言葉から大聖女さまを狙っていると思われるので、その護衛に向かわれました」
「なるほど、俺もそうした方がいいか?」
「え……と……それは一騎士である私には、わからないことですので、すいません」
「それもそうか、教えてくれてありがとう。大司教はどこにいるんだ?」
「大司教さまは、大司教室で指示を出しておられます」
「分かった」
あまり気は進まないがここは大司教室まで行って、指示を貰うか。
しかし、侵入者か。何が目的なんだ。
本当に大聖女が目的なんだろうか。
ちなみに大聖女は、この大聖堂に住んでいる。
ただ見たことはない。人前にはほとんど現れないらしい。
俺は大聖堂に入って、エメルテアの部屋に向かう。その途中。
「こんにちは」
前から誰かが来て、いきなり挨拶をしてきた。
執事服を着た男と、その横に藍色のドレスを着た少女がいた。
見慣れない連中だ。
間違いなく、この大聖堂の者ではない。
もしかしてこの二人が侵入者か?
話では、侵入者は顔を隠しているはずだが、この二人は堂々と晒している。
違うのか。もしくはどこかで隠すのをやめたのか。
「あなたは、確かリストさんでしたね。忠義の聖女、返してもらいますよ」
返してもらう?
どういう意味だ。忠義の少女とは確かミリアのことだ。
こいつはやはり侵入者で、狙いは大聖女ではなくミリアだったということか。
しかしこいつらは二人組だというのが、気にかかる。もしかして守護騎士と聖女か?
だったら舐めてかからない方が良さそうだな。
俺は分身を使う。一体は救援を呼びに行かせる。
「断絶結界」
ドレスを着た少女がそう行った瞬間、青い半透明の壁が出現した。
その壁に阻まれて、分身は外に出られなくなる。
「さて、始めましょうか」




