28話 罠
隣町に向かう道中。
「罠があるならこの辺かしらね」
イリーナがいきなり呟いた。
「分かるのか?」
「勘よ」
「勘かよ!」
「イリーナさんの勘はよく当たりますからね」
トリシャがフォローした。
「リスト、一つ言っておくことがあるけどいいかしら」
「なんだ」
「堕落の聖女には決して情けをかけるんじゃないわよ。彼女たちは悲惨な目に遭って、堕落したけど、今はもはや人に迷惑をかける存在でしかないわ。容赦なく殺しなさい」
「……すまん、お前の話を聞くまで、容赦しようなんていう発想は頭になかった」
「あらそうなの」
「殺されそうになっているからな、こっちは。今度きたら確実に仕留めるつもりだったけど。そうか、考えてみれば、奴も悲惨な目に遭ってあんな行動をとるようになってしまっているんだな」
「余計なこと言ったかしらね。考えちゃダメよ」
「まあ、大丈夫だ俺はそんなに甘い性格ではないんでね」
自分を殺しにくるやつは、どんな奴だろうが斬る。
魔物だろうが人間だろうがそれは変わらない。
そうしてなければ今、俺は生きていない。
俺はふと、足元を見た。特に意味はない。
ただそこで気になるものが目に入った。
「何だこれ」
地面に文字が書かれまくったシールが貼ってある。
一体何なのか見当もつかない。
「それは!」
イリーナが見た瞬間に目を見開いた。
彼女はこれが何であるか知っているみたいだ。
リリナ、トリシャ、ロブも目も見開いている。
俺とミリア以外は知っているのだろうか。
四人がシールの存在に気づいたのと、ほぼ同時くらいに、シールがまばゆい光を放つ。
「逃げられない。全員戦闘準備!」
よく分からないが、戦闘準備と言われたので咄嗟に剣を抜く。
光が治ると、周囲の光景がまるで変わっていた。
草原にある道を歩いていたのが、いつの間にか森の中にいた。
さらに、黒い鎧の連中と、三人の黒い服を着た女に囲まれている。女の一人はメーリスであった。
この時、瞬時に察する。これは罠だ。
黒い鎧の連中は全員がクロスボウを持っていた。
「放て!!」
メーリスではなく、赤髪ツインテールの女が指示を出した。あの女も聖女なのだろうか。
指示に従いクロスボウが次々に撃ち放たれる。
クロスボウの攻撃は脅威ではない、イリーナとトリシャがバリアを張ってあっさりと防ぐ。ミリアも遅れてバリアを張った。
しかし堕落の聖女の攻撃は簡単には防げない。
クロスボウの矢に混じって、恐らく堕落の聖女が放ったと思われる攻撃があり、それが当たるたびにバリアにヒビが入り、壊れそうになる。
「リリナ」
イリーナがそう言ったと同時に、リリナが何かの準備を開始する。
集中力を高めているようだ。
数秒経過し、
「全員バリアを消して」
そうイリーナは指示を出した。
全てのバリアが消滅すると同時に、リリナが剣を天に掲げる。
光の矢が剣から放たれて、それが矢を一本一本撃ち落としていき、さらに勢いを弱めず敵の頭に突き刺さった。
声すら上げることなく、手下たちは全滅したようだ。
「失敗だ。ここは逃げるぞ」
堕落の聖女たちは死んでおらず、逃げ出し始める。
それぞれ別の方向に逃げ出した。
逃すか!
俺は分身を使用。
分身たちにメーリスを追わせた。
「私たちは、赤髪ツインテールを追うわ。あなたは、黒髪の女、トリシャたちはもう一人を追ってちょうだい」
イリーナは全員逃がさないつもりか、同時に追うよう命じた。
メーリスに分身を向かわせていた俺は、元よりそうするつもりであったが。
ミリアを抱えて、俺はメーリスを追いかける。
しばらく走ると追いついた。
分身が足止めしてくれていた。
「なんのよこれ、何で二人も? てか、もう一人来たわね。あれが本体ね」
分身でメーリスを囲む。
「あー、これじゃあ逃げられないじゃない。何、あなたまた私と遊んで欲しいの? だったらやってやるわよ」
こいつには一回勝てそうになった。
分身がいるのでは逃げられないだろうし、これは勝てるはずだ。
メーリスとの戦いが始まった。
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次回は今月五日に投稿します。




