15話 堕落の聖女
何だこいつは……。
なぜこんなに回復力が高い……?
「あらあなた。堕落の聖女の相手をするのは初めてかしら?」
「なんだそれは」
聞いたことのない言葉……。
いや、そういえばベルシンから聞いた噂に、黒い鎧の連中は、堕落させるためにやったと、言っていたらしいな。
「聖女の力を持つ子をひどい目に遭わせることで、その子を堕落させることが出来るのよ。聖女には色んな力があるけれど、自分で使うことが出来るのは極一部。自分では使えないけど、他人にその力をあげることはできるわ。あなたみたいな守護騎士は、力を聖女に貰い使えるようになっているのね。本来はそうやって他人に付与するための力を自分で使えるようにする方法があるわ」
「……堕落すると使えるようになるのか?」
「そう。堕落した聖女は、聖女の力をすべて自分で使うことが出来るようになるわ」
先程の回復力と、身体能力はそういうことか。
こいつは、元々聖女の力を持っていた女で、それが堕落して守護騎士の力を使えるようになっているようだ。
「あなたみたいな守護騎士がいる聖女は、堕落させる前に守護騎士を殺さないといけない。そうしないと、堕落しても守護騎士にあげた力を使えるようにならないのよ」
守護騎士は聖女から離れられないからというのが理由ではないのか。
とにかく俺を殺して、ミリアをひどい目に遭わせて堕落させようというメーリスの目的は理解した。
そんなことさせるわけにはいかん。確実に止めなければならない。
だがこいつは、守護騎士の力を持っている。
能力的には互角。
簡単に勝てる相手ではない。
あとは個人の力量次第だが、それは戦ってみないと分からないな。
しかし、こんな狭い場所で戦うのは少々やりづらいな。
騒ぎが大きくなりそうだし。
まあ、やりづらいのは向こうも同じだろう。
俺は剣を構えて敵の出方を伺う。
「闇槍」
メーリスは手を前に伸ばしてそう言った。
地面から闇が発生し、それが槍の形になる。
その槍を手に取って構える。
その槍を使い、突きを放ってきた。
高速の突き。狙いは俺の頭だ。
辛うじて避けるが、頬にかすり傷を負う。
傷はすぐさま治癒。
お返しに、心臓を狙って突きを放つ。
メーリスはそれを避けない。
胸に剣が突き刺さる。
普通ならそれで死ぬだろう。
しかしメーリスは、かすかに笑みを浮かべる。
そして心臓に剣が刺さったまま、槍を俺の顔目がけて突き刺してきた。
咄嗟に後ろに下がって回避する。
俺の剣はメーリスの心臓から引き抜かれるが、それと同時に心臓に開いた穴も一瞬でふさがる。
……奴は俺と同じく【超回復】を持っているんだったな。
まて、じゃあどうやって倒せばいいんだ。
あんなにすぐ回復されたのでは、倒しようがない。
「あなた戦い方が分かってないのね」
挑発するような笑みをエーリスは浮かべる。
そう言えばあいつは、俺の頭を狙って攻撃してきたな。
頭を攻撃すれば【超回復】を持っている奴でも殺せるのか。
ほかにも首を刎ねるのも有効かもしれないな。
俺は剣を構えて、奴の頭を斬りにかかる。
今度は防御してきた。
頭の傷は回復しないのかもな。
これは、俺も肝に命じておこう。
全ての攻撃が大丈夫だと思っては、駄目かもしれない。
そう言って後ろに下がり、先ほど殺した黒い鎧の男が持っていた剣を拾い、それを投げてくる。
頭にめがけて飛んでくる剣を回避。
その隙をついて、メーリスは俺の顔に突きを放ってくる。
咄嗟に剣を出し、僅かに槍の軌道を変える。槍は俺の肩に突き刺さる。
回復するが痛みはある。俺は顔をしかめる。
瞬時に槍を俺の肩から抜いたメーリスは、再び槍を俺の頭に突き刺そうとする。
しゃがみ込むように回避。そして隙が出来た奴の腕を、二本まとめて斬り落とした。
腕と一緒に闇槍が床に転がり、消滅した。
奴の腕は回復したが、武器はなくなっている。
「あら」
もう一度、腕を前に出して闇槍を出そうとしているので、剣で腕を斬り落とす。
そして、絶対に反撃できないよう剣を振る。
奴は後退し、俺の剣を避けるが、すぐさま距離を詰め槍を出す機会を与えない。
頭への攻撃は警戒されているので、中々当たらない。
俺は攻撃の場所を足に変更する。
足への攻撃は、警戒が薄かったのか、当たった。
一本足を斬りおとされ、メーリスはバランスを崩しこけた。
今だ!
こけたメーリスの頭に斬りかかる。
「闇壁!」
メーリスは咄嗟に手のひらを出してそう言った。
すると黒い壁が出来て、俺の剣を防いだ。
メーリスは急いで俺から距離を取る。
「あなた中々強いわね。アタシでは倒せないかも。ここは逃げるわ。次は友達と一緒にくるわね」
「何?」
もしかして、ほかにも堕落の聖女はいるのか。
「じゃあ、さようなら」
逃げようとするメーリス。
ここで逃がしては面倒なことになるので、追いかけようとするが、途中で壁にぶつかる。
守護騎士は聖女から離れられない。
俺は諦めて部屋に戻った。
とりあえず追い払うことに成功したが、大きな不安を残すことになった。




