10話 圧倒
トルダたちがここに来たのはかなり意外だった。
まるで理由が分からない。
「何だ? 見送りにでも来たのか?」
「ははは、逆だ連れもどしに来たんだよ」
「何?」
ますます意味が分からない。
俺を連れ戻すってパーティーにか?
仮にそうなら断るが……。
ただ何やら武装してきている。
明らかに力ずくで来ている。
「実はお前とそこのガキを、連れて来いという依頼を受けている。生きたまま連れて来いとな。大人しく従ったら、俺たちとしても楽でいいが、抵抗した場合は無理矢理でも連れていく」
「……お前いつから人攫いに転職したんだ?」
「昨日の夜だ。今日限りで引退するがな。大金を貰って冒険者も引退して、悠々自適に暮らすのさ」
金に釣られて犯罪まがいの依頼を受けたという事は理解した。
冗談で犯罪まがいの依頼を受けようとしていたのは、見たことあるが、あれは冗談ではなく半ば本気だったのか。
ほかのパーティーメンバーも、金欲しさに目の色が変わっている。
決して無理矢理連れてこられたわけではないみたいだ。
元仲間のクズさと、自分の人の見る目のなさに呆れてしまう。
「リストさん……」
「ミリア、すぐ終わらせるからちょっと後ろに下がっていろ」
ミリアは俺の指示に従い、少し後ろに下がる。
こいつらの戦闘能力は一人を除き良く知っている。その一人も以前の俺と似たような力量だろう。
正直、今の俺なら負けることはないと思う。
それくらいあの時のパワーは規格外のものだった。
パワー以外に速度など、上がっているものを確かめたかったので、ここは試すいい機会かもしれない。
腰に剣を付けているが、使わない方がいいだろうな。
なれていないので、勢い余って殺す可能性もある。
別に情があるというわけではないが、こいつらに依頼をした奴の情報を聞き出したいので、なるべく殺さないようにしたい。
「お前らに依頼したという奴の情報を言えば、無傷で帰してやる。言わなければここで少々痛い目に遭ってもらう」
「……は? ははは何言ってんだこいつ」
「よくこの状況で威勢が張れるわね。あんたこの状況分かってる?」
見た感じ俺の力を知っているというわけではなさそうだった。
思いっきり舐めてきている。
「時間が惜しいから、さっさとやっちまうか」
「しかし、こいつ一人倒して一億ゴールドなんて、ほんといい仕事だよなー」
油断しながら近づいてくる。
魔法使いのリサが、ファイアボールの魔法を使って来た。
火の玉を放つ魔法だ。
俺に向かって飛んできた。
避けるかどうか一瞬考える。
後ろにはミリアがいる。避けるのはまずい。
俺は右手でファイアボールをガードした。
「よし直撃」
「お前仮に避けてたらガキに当たって、死んでたかも知んねーぞ。気を付けろ」
「そ、そうね。生かしたまま連れて来いって依頼だったわね」
「まあ、ただこれであいつは右手が使え……」
トルダたちの雑談が止まる。
俺の右腕を見て驚いたからだろう。
ファイアーボールの直撃を受けても、俺は大したダメージは受けなかった。
そのダメージも一瞬で回復して、俺は無傷だった。
何というか。
防御力の高さと、回復能力の高さが相まって、ほぼ無敵のような状態になっているな。
「む、無傷? 私が放ったファイアボールよ?」
魔法は使い手の魔力により威力を上げる。リサは自身の魔力に自信を持っていた。
「ど、どういうことだ……!」
「見たままだろ」
トルダたちはかなり動揺している。
「何かのトリックだ。お前に当たる前に爆発したんだな。お前ごときがリサのファイアボールを受けて、無傷でいられるわけがない」
そうしてトルダは剣を構え始めて、
「接近戦ならトリックは使えねーだろ!」
俺に向かって斬りかかってきた。
俺の代わりにパーティーに加入した女剣士と壁役のグラーシもそれに続いた。
まずトルダの動きだが、かなり遅く見える。
元々スピードが一番の売りだったトルダのスピードが、こんな遅く感じるとは、目も良くなったようだな。
目は戦いで非常に重要な要素だ。
それが良くなると、敵の攻撃をそう簡単に喰らわないようになる。
まあ俺の耐久力なら、攻撃を避けなくてもいいような気がするけど。
今回は避けてもミリアには当たらないので、避ける。
物凄く素早く動けた。トルダの剣なんか問題ないくらい早く動ける。
パワーだけでなくスピードも上がっているみたいだな。
「な!」
俺に避けられて動揺しているトルダの腹に、パンチをお見舞いする。
殺さないよう手加減したがそれでもだいぶ効いたみたいで、腹を抑えてトルダはうずくまった。
トルダがあっさりやられて動揺している前衛のもう二人を、猛スピードで動き、同じく腹にパンチを入れる。
「な……」
「ば、化け物!!」
後衛のリサとアーシェはその様子を見て、全力で逃げ出した。
追撃は不可能。守護騎士の特性上、ミリアから長距離、離れられない。
よく考えたら遠距離から一方的に攻撃されると、反撃が難しくなってしまう。
何か遠距離で攻撃する方法を見つけた方が良さそうだな。
あの二人は逃がしたが、まあトルダがいれば十分だろう。
「な、何で、お、お前が……そこまでの強さを……」
「成り行きでな。誰から依頼を受けたか教えてもらおうか」
「だ、誰が……」
俺は指を掴む。
「折るぞ?」
「ひぃ!」
こいつは冒険者のくせに、痛みに強くない。
攻撃になるべく当たらないため、速度を磨いていたくらいだ。
ちょっと脅せばすぐ情報を漏らすだろう。
「さ、酒場であった男から依頼を受けた!」
「名前は?」
「し、知らない」
「本当にか?」
指を折ろうとする力を強める。
「ほ、本当だ本当に知らない!」
必死に叫ぶ。
たぶん本当だな。
ミリアがいる手前、あんまり残酷すぎることはしたくない。
「報酬はいくらだ」
「い、一億ゴールド」
「一億?」
そりゃまたとんでもない大金だ。
そんな金で俺たちを捕らえようとしていたのか。
かなりの権力を持っている奴に、狙われている可能性が高いな。
「ほかに何か聞いてないか?」
「お、お前らを連れていく場所は聞いた。そ、それ以外は何も知らねぇ!」
「どこだそこは」
「町はずれにある倉庫だ。知ってるだろう」
町はずれに倉庫は一つしかない。
誰も使っていない古びた倉庫がある。
ほかの誰かに見られないよう、その場所を取引場所に選んだのだろう。
ここで倉庫に行けば、トルダに依頼した奴に会えるかもしれないが……。
俺が来るのを見越して、待ち伏せしている可能性もあるな……。
相手についてもっと情報を引き出せればよかったんだが、正体も分からないのでは、リスクが高い気がする。
ここは安全策を取り行かないことにしよう。
「ミリア先に行くぞ」
「この人たち何だったんですか?」
「俺たちを攫いに来たらしい。もう倒したから安心しろ」
「はい」
俺はミリアと再び手をつなぎ、目的地のラーノイスへの旅路に着いた。
○
「ふむふむ。分かりました」
リストの戦闘の様子をかなり遠くから眺めていたものが二人。
一人は、トルダたちに依頼をした男、もう一人はドレスを着た少女である。
二人の近くには、意識を失ったリサとアーシェがうつぶせで倒れていた。
「あの程度の戦闘で分かるのか?」
「はい、彼は不適格です」
「そうか」
少女はたんぱくに返事をする。
「あの連中はどうする?」
「そうですね。念のため手ごまとして持っておきましょう。これから色々やってもらいます」
「哀れな連中だ。これから地獄だな」
「さて、連中を回収してください」
男が命令をした瞬間、執事風の服を来た男たちが現れ、動き出した。
「我々は帰りましょう」
「そうですね」
男と少女は、その場から立ち去った。




