「37話」
一体どこでミスったのだろうか……。
最初は順調だったのに。
狩ると決まったので俺は一度宿屋に戻り荷物を整えることにした。
と言ってもそんなに量は多くないのですぐに準備が整う。
「んじゃ行きますかね。 タマさん準備いい?」
「リンゴがないニャ」
あとはタマさんが大丈夫なら出発するだけなのだが……。
キョロキョロとあたりを見渡してリンゴがないと訴えるタマさん。
首を傾げて見上げてくるあたりすごくあざとい。でも可愛い。
「現地で休憩するときに出すよ」
そういってタマさんの頭をなでる。
いま出しても歩いているうちに傷んじゃうかも知れないし、出した瞬間に食われそうな気がするからね。
しかし、この手触りたまりませんな……うへへ。
「ニャ。なら準備できたニャー」
あとでリンゴ貰えると分かったタマさん。ささっと玄関へ向かってしまう。
宙に浮いた俺の手がむなしく空を切る……てかタマさん、準備できたって手ぶらじゃないですかそれ。
まあ、タマさんにとってはちょっと散歩いく程度の認識なんだろうけど……俺もそのうちそう思えるぐらい強くなるのかねえ……ま、行きますか。
「んじゃ、まずオークからだけど……とりあえず現地まで走って行く?」
「ニャ。途中ショートカットもしてくニャ」
「ショートカットなんて出来るんだ……」
ショートカットがあると聞いてちょっぴりショックを受けたぞう。
ゴリさんと狩ってたときはそれこそ現地まで息も絶え絶えになるぐらい走ったわけで、まさかショートカット出来るとは……ぐぬぬ。
「あるニャ。でも新人には普通は教えないニャー」
「あ、そうなんだ?」
新人には教えない……なんでだろ。
楽してんじゃねーぞう的な感じなのだろうか?
「ショートカットしてうっかり深い階層に行ってあっさり死ぬからニャ」
「なるほど……」
ごめん。ぜんぜん違う理由だった。
ちゃんと新人のこと考えた上での措置だったのね……てかショートカットすると深い階層にいくって、どんなショートカットなんだろ。行き先ランダムとか?
そんな感じでタマさんと駄弁りつつ道を進んでいたわけだけど、表層のセーフポイントへとつくとタマさんが下に降りる道とは違う方向へと向かっていく。
少し歩いたところ立ち止まるとタマさんは先を指さしながら俺へ声を掛けた。
「ここニャ」
タマさんが指さした先、そこにはぽっかりと大きな穴が口を開けていた。
どれだけ深いのだろうか、底がまったく見えないんですが……。
「やだなあタマさん。これただの穴じゃないですか。もう冗談きついんだからー……まじでこれ?」
冗談であってくれという願いを込めてタマさんに話しかけるが……タマさんの目はまじであった。
なんかもうさっさと飛び込めと目が訴えかけている。
「ニャ。はやく飛び降りるニャ」
「ちょっ押しちゃだめ!って、あっあっあっ」
飛び込もうとしない俺にじれたのかタマさんが俺を後ろからぐいぐ押してくる。
嬉しいけど、嬉しくない!
「……ぁぁぁああああっ!?」
こうして俺は転げ落ちるように穴へと飛び込んだのであった。
ひどく長い時間に感じられたけど、実際はそうじゃなかったかも知れない……気が付くと俺は地面へと滑るように投げ出されていた。
「ニャ。ついたニャ」
「途中から滑り台なってるのね……けつ痛い」
ずきずきと痛むけつを押さえて立ち上がる俺。
どうもあの穴の先は途中から滑り台のようになっていたらしい。
そうだよね、いくらなんでも普通の穴に飛び込むとか自殺行為だもん。
でも、事前に一言いってくれても良いと思うんだっ、ちょっと寿命縮まったぞう……。
「さっそくオーク狩るニャ」
「……へい」
何か狩りする前からどっと疲れてしまった……。
と、いかんいかん。こんな状態で狩りしたらうっかり痛手を負いかねない、気持ち切り替えてこう。
「んー?」
まあ、そんな感じでさっそくオークを狩りにいったわけですけど……ほっといても向こうからくるんだけどさ。
と、それはともかく。俺は右半身だけではなく左半身へ蔦を巻きつけて準備万端な状態でオークを迎え撃った。
そしてオークの攻撃を盾で受けたとき、そのあまりの軽さに思わず声が出た。
今まではさ、盾で受けると下手すると手首折れるんじゃないかってぐらい衝撃がきたんだけど……子供に殴られた?ってぐらい衝撃が軽かった。
蔦の効果やばすぎる。
「……とりゃ」
武器で攻撃をしようかと思ったけど、ふと何となく左手にもった盾でオークの顔面をかなり強くぶっ叩いてみた。
……思ってたよりいい音がした。
オークの顔面はぐちゃりと潰れ、オークは仰向けにゆっくりと倒れこみ、そしてそのまま動かなくなる。
「こりゃ凄いね。オークがむちゃくちゃ楽に狩れるようになったよ……」
もう右手で攻撃をしようが左手でしようが……というかどこで攻撃しようがオークが相手であればほぼ一撃で倒せるだろう。
どこでも攻撃できるし、防御するのも余裕だしで正直ゴブリンの群れを相手にしていた時よりも大分楽にオークを狩れることだろう。下手すりゃ素手でも余裕そうだ。
「ニャ。あと何匹か狩ったら次にいくニャ」
「あ、やっぱ行くのね……」
タマさんはそうなるって分かってたんだろうね。
数匹ここで狩るのは俺をこの体に慣れさせるためだろう。
こうして俺はオークを数匹狩り、タマさんの後をついて次に……ダンジョンの中層へと足を踏み入れたのであった。




