「33話」
タマさんの気持ちが変わらないうちに話題変えておこう。そうしよう。
うっかり気が変わったら大惨事である。
「それじゃとりあえず保留ってことで」
「ニャ」
「あ、そうだリタさん。 俺みたいに体が変わっちゃった人だけど……もうダンジョンから戻っていたりします?」
すまぬ、また名前忘れてる……俺の脳みそやっぱ死んでるのかも知らん。
「キンバリーさんですね……先日の夜に戻ってきているようですね、記録が残っています。 恐らく今日か明日にはギルドに顔出すと思いますよ」
おお、そうそうそんな名前でしたね。
忘れないように心の中にメモっておこう。
そのキンバリーさんであるが、ありがたいことに昨夜ダンジョンから戻っているとのこと。これなら近いうちに話を聞けそうである。やったね。
「おお! やった、話聞けるといいなー」
「ニャ。 噂をすればニャ」
タマさんと喜びを分かち合うふりして頭を撫でまくっていると、そういってタマさんはギルドの入り口へと顔を向ける。
「おおう?」
なんだなんだと俺もそちらへ顔を向けると、とっても人相の悪い兄ちゃん……というにはちょっと年くってるかな? まあ、いいや。
とにかく人相の悪い男性がいたのだが、俺がじーっと見ていることに気が付いたのだろう、受付側までくると俺に声を掛けてくる。
「なんだ? 何か用か坊主」
「ちょっと話聞きたいニャ。いいかニャー」
声を掛けられたのはいいが、とっさにどう返したら良いかともたついていると、俺に代わってタマさんが用件を伝える。
すまぬ、撫でるのに夢中だったんだ……。
「ッタ、タマさん!? も、勿論です」
「何かすんません……」
タマさんに話しかけられたキンバリーさんだけどびくと身を竦ませたかと思うと直立不動の体勢になる。
なんか申し訳ない気持ちになって思わず謝ってしまう……。
たぶんびっくりしたんだろうなあ。
見えてはいたけど目の前で頭をぐりぐりされてるのがタマさんだと認識できなかったんだろう。
っと、何時までも直立不動の体勢にさせておくわけにもいかないね。
俺はタマさんの手をひくと手近なテーブルへと向かうのであった。
「それで話ってのは何ですかい……?」
ちらちらと俺の横に座るタマさんに視線を向けながらそう話すキンバリーさん。
「ニャ」
「この体について何ですが……」
タマさんが俺の腕をぽふりと叩く。
ありがとうございます。たぶんこの腕を見せろってことだろうね。実際ながながと説明するよりも腕を見せりゃ一発だろう。
俺は右腕覆っている布をぐいとめくりあげ、キンバリーさんへと見せた。
「……ああ、お前さんもか。 災難だった……いや、ラッキーだったなと言った方がいいか? ダンジョン潜るには本当有利だからなこの体は」
災難だったなと言いかけ、ラッキーだったなと言い直すキンバリーさん。
実際他人から見れば災難に見えるだろうけど、彼の言うとおりダンジョン潜るなら本当有利だからね。
俺もその辺りは実感済みなのでええ、と頷いておいた。
「ええ、まあ……えっとですね、この体について分からないことが多くて、キンバリーさんのその体について分かっていることを教えて頂けたらなと……もちろんお礼はします。こちらをどうぞ」
「こ、こいつは……」
んで本題に入るわけだけど。
一応お礼の品は用意しておいた。ものは皆察しのように真っ赤に熟れたリンゴである。
甘味は貴重であることは分かっている。最下層でとれる果物と比べ甘みが強いこのリンゴはお礼の品としては十分だろう……まあ、ダンジョンに潜って取ってきたものではないし、それどころか特に苦労もせず手に入れたリンゴなんだけどね。ちょっとそこだけ申し訳ないけど、甘味は貴重ってことで……い、いいよね?
そんな心配をよそに思っていた通り……というかそれ以上にキンバリーさんは食いついてきた。
リンゴを前にしてゴクリと喉を鳴らす。
「それはお時間取らせてしまったお詫びです。 もし体について教えて頂けるのなら追加でいくつか差し上げます」
「いいのか? 正直こっちが得しすぎていると思うんだが」
なんてキンバリーさんは言うけどその目はリンゴを捉えて離さない。
絶対返さないと目が言っている。
……ふと思ったけど、これ俺から取れたリンゴってばれたら後々不味くない?
甘味は貴重なのは確かだけど、たぶんキンバリーさんはダンジョン最下層で取ってきたと思ってるよね、これ。
「ええ、構いません……」
不安になったのでキンバリーさんにそう言った後、こっそりタマさんに耳打ちする。
「別に言ってもいいと思うニャー。 昨日の見られてるし、すぐ広まるニャ」
言った方がいいと思う。相談したところ返ってきたのはこの答えである。
そうだよね、すぐばれるよねーですよねー。はい、話します。
「この実は俺の能力で出したものです。 なので気にせず貰ってください」
「そいつはまたすごい能力だな。そう言うことなら遠慮なく頂くわ……うめえな。……いやこれ美味すぎだろ」
「ニャ」
俺の能力で出したときいてギョッとした表情浮かべたキンバリーさんであったが、改めて俺の右腕を見て納得したように頷く。
ダンジョンから取れた貴重な物ではないと分かり、キンバリーさんは早速とばかりにリンゴに齧りつく。
そして美味い美味いと食べ進めるのであった。
てか美味すぎ……?
や、確かにリンゴは美味しいと思うけどそこまで言うほどだろうか?
そう疑問に思う俺の前でキンバリーさんはすさまじい勢いでリンゴを平らげ、そしてはっと気が付いたように手元を見て、悲しげな表情を浮かべた。
……これは、それだけこの世界で甘味は貴重である。それか俺の出したリンゴが特別美味いかだろう……そういや俺、まだこのリンゴ食ってないや。
後で食べてみようかな……いやね、自分の体になった実だよ?なんか食べづらくてね。
「こんな美味いの初めてだ…………よし、いいぜ。参考になるかは分からんが教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「ただその前に……」
リンゴを出したのが功を奏したようだ。
キンバリーさんは教えてやるといって笑みを浮かべ……もう1個貰っていいか?と言うのであった。




