4.戦闘……というほど戦ってない
昼休みに入った。
生徒総会後の二時間はカリキュラム説明が主で結構真面目に聞いていたが、特にこれといって驚く要素は無かった。ただの確認タイムだ。
「……たっけぇ」
「それは同感かも。プラチナピンは明日確定するんだっけ、圏内だといいね」
食堂のメニューとにらめっこする二人。どちらも金に対してはとにかくうるさい。値切れるものは値切るし、安いものは何故安いのかの理由を探る。そうやって金にがめつく生きていた。
「……ほぅ、最安値で180円ってところか」
「卵定食じゃないの?」
「ばっか、ちゃんと書いてあるだろ。――増減は米飯100gあたり20円、おかずは各メニューで変わる。つまりだ、この牛タン定食の米100減、肉ナシにすれば昼食180円ですむ。今日はこれにしよう」
「それ白米じゃん……」
「いや味噌汁とサラダもついて来る。これと持ち合わせのお茶漬けの素があれば問題ない。どうやら水と湯は無料のようだし」
「それ持ち合わせる物じゃないし……」
僕は思うんだよ、日本人の最大の発明はお茶漬けだって。だから尊敬の意も込めて、常に素を三袋は持ち歩いている。最悪お湯に付けなくとも美味いから。
メニューから選択してサーバーに送信……しようとしたところで一時停止。増減に関してはカウンターに直接申し出ないといけないらしい。はぁと溜め息着いた頃には、注文を終えた時雨は日の当たらない明るい席を二人分とっていた。あの余りは僕の席と考えてもいいのだろうか、いんだよね、自意識過剰って言われないよね。
「……? どうしたの、注文方法わかんない? それともお茶漬け止めた?」
「いや、増減はカウンターに直接らしくて、ちょっと面倒だなぁっと。行ってくる」
あれが僕の席だっなら時雨がキープしてくれるはず……戻ってきたときに埋まっていたら、諦めてトイレにでも駆け込もう。
「牛タン定食、肉抜き、米100g減で」
周りからの視線が痛い。もしかして、憐れんでいるのだろうか。同情するら金をくれ。
食堂に立つのはやはりおばちゃんと相場が決まっており、たとえそれがうら若き学生でも僕はおばちゃんと呼ぶ。食堂のお姉さんとかなんだよそれ、仲間を紹介してくれるのか。それは酒場か。
おばちゃんから白米を受け取ると、さっそく『ご自由にお使い下さい』となっている小さめのどんぶり皿に米を投入。お茶漬けの素をふりかけ、給湯器のお湯をぶっかけると完成。こんなに簡単なのに、何故学食にお茶漬けが無いのか不思議で仕方ない。
「Excuse me? What's this? It's not on this menu,is it?」
『すみません。これは何ですか。メニューにはありませんよね』と、始めに反応したのはデバイスの言語自動変換プログラムであった。突然肩をたたかれ話しかけられた僕はビクつき反応に送れてしまう。なにせ女子から話しかけられることなんて滅多に……時雨がいたわ。
恐る恐る横を向くと、片耳を見せた黒髪ショートヘア少女の興味は、湯気をもんもんとあげるお茶漬けにそそがれていた。
取って食われそうなのでお茶漬けをかっさらい早々に逃げる。
ちらりと振り返ると、手を伸ばした少女が諦めたように項垂れた。すまなくは思っているよ? でもこちとら英語が苦手なんだよ……そりゃ成績が悪いわけじゃないけど、英会話となると自力では難しいのだ。デバイス使えよと言われるが、翻訳には現実とのラグが無くならない。それが嫌で、なるべく英語をそのまま理解できるレベルで会話したいのだけれど……習得にはあと一年くらい勉強が必要そうなのだ。
「あれいいの?」
「……まぁ、大丈夫だろ。リボン赤だし、まだ日本に来たばかりでしらないだけだ。お茶漬けなんて日本に住んでいりゃいつだって巡り合える」
「そう……? ま、いいや。先食べてていいよ、あと少しで来るから」
「そのつもり。いただきまーす」
――お茶漬けを食べている間、ずっと狂気的視線を感じたのは、気のせいだと信じたい。
五時間目、『第一アリーナ』への集合が完了していた。といってもこのアリーナには観客席なんて大層な設備はなく、あるのは4mほどの高さに、外周を沿うような形でつくられた通路くらいか。人がすれ違えるくらいの幅で、お目付け役の先生方が生徒たち見下していた。おっと、ネガティブすぎたか。
ここ第一アリーナは、校舎から南南西の方角に位置している。といっても正門から出て道一つ挟んだ、比較的近場だ。
ABIJの4クラスを詰め込んでもまだ余裕はあるアリーナには、握力、腕力、走力、敏捷力、物を用いた運動力、射撃能力……ついでか柔軟性を計測するための設備が整っていた。各クラス男女別になり、一時間かけてローテするらしい。記録・計測は機械が勝手にしてくれるそうだから、在籍番号を入力すればそれでいいらしい。なんとお手軽、小学校の頃は手書きだったからなぁ、ありがたさがしみじみ理解できる。
ローテと各計測などなどの説明を終えた体育教師――柳田は最後、呆れた様子で僕を指示した。
「……私の言いたいこと、なんだかわかりますか」
「何故ただのジャージを着ているのか、という疑問でしたらまず第一に思い当たる通りですよ。用意しておりませんので、ないのです」
「馬鹿か!?」
おっと、心的外傷を受けたぞ。虐待で訴えてやろうか。本当にできそうだからやめておこう。僕の知る現代教師は、法に脅され縮こまっている人ばかりだ。これくらい爆発してくれる人は貴重な人材、とっておくべきだろう。
集合した時点で、皆戦闘服に着替え終えていた。ライデン社製の戦闘服が主の留学生組と、三葉社製の戦闘服が主の日本組。純粋な性能で言うのならば、圧倒的にライデンの方が上だ。しかし三葉は日本で最もメジャーなメーカーであり、世界最安値を誇りながらも一定の水準を保っている。生徒間の財力が明らかで面白いくらいだ。
まぁそんな中、今僕に貧乏の烙印が押されたことは確かである。間違ってはいない。
「……戦闘がどれだけ危険なモノか、君は理解が足りないようだ。戦闘服の重要性を今一度説明してやろう」
「いえ、結構です。要するに、当たらなければいいのですよ」
だったらこんな安っぽい戦闘服で仮初の安心与えない方がいいのでは? という言葉を呑み込んで言い訳を重ねると、舐めたことをいう生徒に対し先生は少々ご立腹の様子。
「柳田先生。ご安心ください、そいつはそれくらいでようやくハンデでたりえる」
「小野寺先生いつの間に!?」
「私の接近に気付けないようでは、こいつにどうこう言うのはやめたほうがいいな」
「そこまでですか……?」
因みにだが、我らが担任小野寺先生はメッチャ強い。何がって中高と総合格闘技で無敗、六年前の『九州天誅』という天皇暗殺未遂事件で、200人の暗殺者を独りで根絶やしにしたことは有名だ。天皇から勲章貰ってたし。
「まぁ、致し方ありません。忘れた者はどうしようもありませんし、責任は小野寺先生。貴女がとっていただけるのですよね」
「一応担任だからな」
うっわなにそれ頼もしい。今なら何でもできる気がする、無責任でいられるなんて最高。
「では今回は不問とするが、しかし、次回からは用意するように」
それからは、僕はなにかと注目されていたので、ほそぼそ適当にやっていた。だいたい上位1%には入るくらいだろうか。そう予想してほどよく手加減する。男女別で良かった、時雨が見ていたらさぞどやされた事だろう。さっきからずっと睨まれているのは気にしない。
現時点での測定値と評価は、デバイスによって確認することができた。一周したところで確認すると、まぁいいところだろうと思う。
――――――――――――――
敏捷:3.2/s 評価9
握力:45.9kg 評価6
腕力:42cm 評価7
走力:7.02s 評価9
運動:31.4m 評価7
射撃:70.0% 評価7
柔軟:67cm 評価9
評価計 64 ランクS
――――――――――――――
0~9の十段階評価。ランクはF~A、その上にSと七ランクが存在する。僕の場合、Sは去年からとれるようになったが、周りの奴を見ると満点はざらにいるだろうと推測できた。身体能力が高い奴は結構見つけられた。男女で比較するのはおかしな話だが、見ていた限りでは女子の方が満点が多そうだ。まぁ、女子の方を眺めていた時間が長かったともいうが。
周りを見る限り、超絶とびぬけた人は見当たらなかった。まさか、評価に関わる内容で、僕のように努めて手を抜く物好きなどそうそういまい。腕力と握力の測定は、なかなか調節が難しかった。全力でやっているように見せかけながらも手を抜く必要があるのだ。握力は握る加減がやはり難しくて、腕力は始め手を抜こうとしたが、本当にびくともしなかったので、能力なしのほぼ全力で測定器を引っ張っていた。
因みにだが、この能力試験は勿論能力の使用が許可されていた。使わないけどね。
「全員、集合!」
五時間目終了のチャイムが聞こえても、この日の授業は続けられた。何せこの後模擬戦があるのだ。一組一分で、一回目はA組vsI組、B組vsJ組。二回目はA組vsJ組B組vsI組の同じ出席番号同士で行う。2アリーナに分かれると言っても、単純計算で七十分くらいかかる。休憩時間を少しくらい潰すのは仕方あるまい。
「十分後、AI組は第二BJ組は第三で模擬戦を開始します。第三アリーナについたら鈴木先生に指示を仰いでください。第二には私がつきます。では、移動してください」
発破を受けたように活発な生徒たちが走り出す中、反対側に向かう僕。だってあの量が狭い通路に押し掛けるんだぞ? 近道だけど、あんなぎゅうぎゅうに押し込まれるくらいならちょっと遠回りした方がいい。急がば回れ。この教訓に学んだ人は、どうやら僕以外にもちらほら。うむ、ひねくれ者が多いな。
中学校の校域内には、アリーナと呼ばれる施設は三つ。第一の南東に第二、その南西に第三がある。大きさはそこまで変わらないが、第二には観客席が設けられており、地面が土だ。第三はどうやら第一のただの拡張版みたいだが、第一では使用不可とされている武器も使用許可が下りているようだ。なるほど金の無駄。一つでいいよほんとに……国民から金むしりやがって。
第二観客席にはもうちらほらと生徒がみられた。それよりも教員が多い。暇だから来てみた、くらいの乗りだろうか。まぁ、情報収集も含まれているのだろうけど。
僕の出席番号は20番、初戦開始まで約五分、まだまだ時間はある。因みにこの学校は、AからHまでは五十音順、IJは誕生日順で決まる。同じ場合はアルファベット順らしい。五十音順で救われたよ。誕生日順だといらぬ気遣いで「じゃあ、お誕生日会、やろうか……?」って顔引きつらせて言ってくる大野がいるんだよ。あいつ結局開こうとすらせず、あろうことか僕が「開いてほしい」と要求したかのように聞こえる噂をでっちあげやがったし。ほんと何がしたかったんだよ。誰も開いてくれなかったし。小二の僕にはかいしんのいちげきレベル、今の僕には無効化に加え反撃込みだな。
なんてことをイチゴミルク片手に思う。遠回りした思わぬ報酬だ。130円、自販機限定なんてずるいことをしてくれる。つい買っちまったよ。
ちびちび飲んで待つこと暫し。審査員のちょっとした紹介があった後、一組目がアリーナに出て来た。片方はナイフ、片方は――盾? それも騎士盾のように全身を庇えるものではなく、バックラー。右腕につけた金属製のそれ以外、武器と言える武器はない。まさか彼は、超レアキャラの盾攻撃なのか……?
『00:59』とアリーナ中央に浮かび上がる。開始までの秒数だ。デバイスの電源を切ってみると、その表示は無くなる。なるほど、アリーナ内の回線に接続しているデバイスに情報を送り込んでいるわけね。やはりまだ空中投影の一般化は難しいか。
アリーナの観客は次第に黙り出し、今か今かと中央で相対する二人に期待を送った。見込みのある生徒はいるのか。能力をどう利用するのか。どんな戦いを見せてくれのか――
思いはそれぞれだろうが、一様に彼らは情報を欲していた。この学校では、個人の能力の公示は一切されない。時雨のように能力が知れ渡っている場合もあるが、それは本人が自分から明かしたのが原因。ほとんどの人は何が何でも隠そうとする。その点で時雨はちょっと変わっているのだ。
始まりが近づく……3、2、1。
「―――は?」
開始のブザーの残響をかき消す、風に穴をあけるかのような音が響いた。聞き慣れた、衝撃緩和の音。それも相当強い力で。
腹でくの字に曲がり、地面から足が浮いている。最初に動いたはずのA組の男だ。
それでは止まらない。無理解と苦痛に染まる顔が、掌底によって顎から打ち上げられる。もろに脳へと衝撃が伝わったのだろう、男は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
会場が色めき立つ中で、決着を告げるブザーは冷静だった。J組の少女は数歩下がり一礼すると、何事も無かったかのように去っていく。
「おいおいマジかよ……」
時間にして、2秒。あまりにも手慣れた様子だった。
そもそも僕は、彼女の動きが始め、目で追えなかった。能力で強化してなかったとはいえ、だ。
何の変哲もない、あどけない少女があれだけの力を保有している。僕には、彼女が技術のみで打ち倒したのか、能力によってナニカしたのか。全く判別がつかなかった。
何をしたのかはわかる。10mもの距離を一瞬で音もなく移動し、相手の鳩尾に拳を叩き込んで、掌底により止めを刺した。それだけだ。それしかやっていない。脳震盪で気絶させただけ。
厄介だ。
単純ゆえ地が硬い。速いゆえ情報が少ない。
彼女はこの模擬試験が何をするためのものかしっかり把握したうえで、自分の情報を与えないように瞬殺した。そうとしか思えない。
「それに加えて……」
担架で運ばれていく男を見る。彼は三葉社製のものではなく、『craftfarm』――通称CF製の少しお高い戦闘服を身に着けていた。ある程度の衝撃緩和の機能が備わっている。
あれでなければ死んだか――よくて二週間くらい寝たきりだったろう。あの拳は、生身の人間であれば余裕で殺せる。具体的に言うと、腹部を貫通できるレベルのものだった。
危険、要注意。留学生に対する意識が、そこで一気に変わった。
そこからはもう、日本人がバッタバッタと倒されていった。瞬殺撃破は最初を含めて三回程度だったが、結局どれも一分持っていなかった。
まぁそれでも、日本人にだって優秀な奴はいて、苦戦しながらも戦闘不能に追い込んだ奴と、両倒れして引き分けとなった人はいた。よく頑張ったと褒めてあげたいが、恐らく実践だと即座に殺されるだろうから可哀相だ。
留学生連中を見ているとわかるのが、一様に戦闘慣れしているということだ。それも、試合とか模擬戦とか、そう言うものではなく。例えば軍に所属していたとか、戦争に出たことがあると言われれば、信じてしまうような戦い方。率直に言って『殺り方』がわかっている動きだ。
温室育ちの日本人が、おいそれとそんな奴らに勝てるわけがないだろう。だからな、時雨。君は一体何者なんだろうか……?
息を切らしながらも、立ったまま、歩いて、僕の下へとやって来る。
あぶなかった~とでも言いそうな顔で、彼女は僕に笑いかけた。引きつった笑いしか返せない。
「お、お疲れ」
「ほんとに疲れたよぉ……最初はなめてかかって来てくれたのに、途中から『殺す殺す殺す――』って呪詛みたいに念じてるんだよ? ほんっと精神的ストレス考慮してほしい」
「いやいやそこじゃないだろ……」
それではまるで、戦いには苦戦しなかった、みたいに聞こえてしまうではないか。やだなーシグレサン。全力で殺し名かかった相手にそんな風に挑発されたら、僕発狂しちゃうよ。
「次、頑張ってね。じっくり見させてもらうから」
「瞬殺されたらごめんね」
期待が大きすぎて困っちゃう。何故にまともな装備をせず、こんなバケモノ連中と戦わなければならないのか。
あぁどうしようあと20秒だ。相手の武器は刀……なんでだよ。剣つかえよ。てかあれで斬り込んでくるの……? 僕の目がイカれて無ければ、どっからどう見ても真剣なんだけど。嫌だなぁ、このジャージ400円ちょいしたからなぁ、斬られたくないなぁ。あるいは加減してくれるかもしれない。相手も戦闘服を着ていない僕に対し、若干戸惑っているみたいだし。
うーん、そうだなぁ。今までの結果から見るに、僕の方から手加減するのは止めておこう。死にたくないしな。すると……『筋力+6、耐久+2、処理速度+1、視力+2、味覚嗅覚-11』というところか。
「調整開始――」
これくらいだと、精々後で酷い筋肉痛関節痛頭痛と味覚障害に陥るだけだ。何ら躊躇いはない。味覚嗅覚を犠牲にするのは、味覚障害後にご飯が滅茶苦茶美味しく感じるからだ。
10秒ほどで調整を終えると、一風変わった世界に順応を開始する。味覚はともかくとして、嗅覚は案外重要だ。なら減らすなよと言う突っ込みは受け付けない。だって味覚と嗅覚がセットなんだもん。
3、2、1――ブー!
と、突然ブザーが鳴った。そう言えばブザーが開始の合図だたっと思い出し、動き出す。
気づいた時には、相手は既に八人ほどに増えていた。うそーん、ワンオアワンじゃないの? まぁ、恐らく能力だろう。全部がぶれている訳ではないから、マッハ20で動いて分身つくっている訳ではない。幻影というと、催眠系統かな。なら、自分から仕掛ける必要もないか。
急停止。
「……来なさいよ」
制止。
「……来なさいって」
無言。
「……なんで来ないのよ!?」
いやいやわかり切ったことでしょう。
催眠系統の強みは、相手の混乱にある。いきなり相手が分身したら、馬鹿正直な奴が考えるのがそこから一人あぶり出すまで分身をつぶすこと。悪くはないが、疲れるし時間の無駄。そんなの相手の思うつぼだ。
それにしても、分身が十人十色の感情表現があるって面白いな。この人に彼氏か夫ができたら、そのひとはさぞかし大変な目にあうだろう。僕なら二時間でダウンだな。ついていけん。
「まともに闘いなさいよ! なにそこで突っ立てるのよ!」
流暢な日本語だなぁ……なんて考えていると突然、分身がぶれた。ただ一人を除いて。
「みっけた」
中段回し蹴り、狙うは肋骨。慣れた動作だ、外すわけがなかった。
快音を響かせて足を振り切ると、盛大に吹っ飛んでいく少女。吹き飛ばさない蹴りもできるが、そっちの方が体に与えるダメージは大きくなってしまう。結局手加減してしまったよ。
「お前の敗因は、ここを戦場と勘違いしたことだ」
ふっ……きまった。盛大にカッコつけちゃったよ恥ずかしい。
「なにカッコつけてるのよ!」
「あぶなっおま、真剣で首狙うとか殺す気かよ!」
「白羽ってるくせにうるさいわね! ごちゃごちゃ喚かないでよ男でしょ!」
「あー! 僕そう言う男でしょとか嫌いなんだよ! 都合のいいときだけ『男』ってことを全面的に押し出して来る奴! 性別に何求めてるんだよ、生殖能力だけだろうが!」
「せ、せいしょ……不純、変態!」
「ガキかお前は!?」
というかこいつ普通に重症じゃんか、模擬戦闘程度にどこまでガチなんだか。
その後散々切りかかって来たかが、顔真っ赤にして変態と罵倒しながらだから全く怖くない、むしろご褒美のレベル……と思ったが、この子そこまでタイプじゃないから一気に冷めた。
結局最後はカウンターで刀を執り上げてやったら、可愛いくらいに弱体化した。具体的に言うと泣き出した。「かぁしてっ、かぁえしてよぉー」って。やめろよ、僕が幼女泣かせる下衆男みたいじゃないか。
なんで模擬戦中に幼女宥めなくちゃいけないんだよ。終了のブザー鳴らせよ。と呪詛を繰り返しながら僕は頑張った。終了したころには、僕にそそがれる視線は冷たいものがほとんどで、もう理不尽しか感じない。刀を返したら拳が返礼だったが、その程度ではもう驚かない。
「覚えてなさい!」
「泣き顔を?」
「~~ッ! 大っ嫌い!」
「僕に興味を持ってくれてありがとう」
「バカ!」
へぇ、馬鹿って罵倒を知っているのか。新鮮だ。しかし、顔真っ赤にして潤んだ目で言われても興奮するだけである。もっと、ティッシュをまき散らした犬を叱るみたいな目でないと……やっぱ興奮するだけだわ
「ユウ、最低」
「最低で結構最低上等。あとは上がるしかないじゃんか」
「うざいくらいのポジティブシンキングありがとう」
そうしないとやってらんないからな、人生なんて。賢く生きよう前向きに生きよう。
「ところでさ、ユウの能力って何だったの? 特別使ったようには見えなかったけど」
「まぁ、単なる肉弾戦だったしな。技術だけで何とかなった」
「ふぅーん、そ。ユウってやっぱり強かったんだね」
「ちょっと戦えるだけだ。強くはない」
そう、僕は強くはないのだ。そこは慢心してはならない。自分の身を滅ぼすし、最悪他人も殺しかねない事態になる。たとえ他人がどう言おうと、これは譲らなかった。
―――いや、僕は弱い。
それを認めたくないから、強くないを主張しているのだろう。そう思うと憐れだな。
僕は所詮子供だ。たった一つの事件でぶっ壊れたガキだ。
脆弱な存在がそれを認めないこと以上に滑稽なことはない。鬱屈になりそうだ。
「観戦するぞ、情報収集だ」
「あ、うん」
忘れよう、こんな思考。