6話
レイナは僕の隣に座りテレビを見ていた。そして泣いていた。理由はわからない。
「私たちは容赦なく人を殺すのよ。それって現代社会では悲しいことに思えない?」
レイナは静かな声でそう言った。
「様々な時代によって価値観は変わっていくからね。人は生きるために牛や豚を殺している。君らも人間をそう見ているんじゃないの?」
「そんなことない」
レイナは泣きながらそう言って笑った。僕のウイスキーグラスの中は氷だけになっていた。レイナは僕のほうへそっと近寄った。瞬間頭に何か血走る。
「すべてが慣れてしまうから」
レイナは僕にそう言った。
「死ぬことも?」
僕はそう言った。僕だって彼女だって死ぬことを怖れているはずだ。ただレイナと僕が違うところはレイナは自由にその境界線を意志によって越えることができ、僕にはできないことだった。
テレビでは相変わらず紛争のニュースばかりやっている。大統領が出てきたりした。
「これは君らなの?」
僕はレイナに聞いた。
「さぁね。私たちはいつも目立たないようにしているから。なぜなら私たちには目立ちたい欲求がないの」
「そりゃあ不思議な生き物だね」
僕はテレビのチャンネルを変えて野球中継を見ていた。レイナはなんでもなさそうに僕の隣でくつろいでいる。
「僕だって君のことを今殺すことができる。だけれどそうしないのはまだ僕が君と一緒にいたいからだ。僕ら人間だって頭さえ使えば吸血鬼のように魔力的でなくても人をそして吸血鬼を殺すことだってできる」
「それが何よ?」
レイナは憂鬱そうにそう言った。
「今君のことを殺そうと考えていた」
「私がイケメンと飲んだから?」
「違うよ。嫉妬なんかじゃない。僕のプライドだ」
「変なの」
レイナはそう言って薄く笑う。彼女と一緒にいると人間たちの行っていることすべてが馬鹿馬鹿しく思えてくるのだった。
「そういえば友達がガールズバーで働かないかって」
「ガールズバー?」
レイナは何のことかわからなそうにしていた。
「男の客と話すだけの簡単な仕事だよ。コスチュームを着てアルコールや飲み物や食事を出せばいい」
「悪くないわね」
案外レイナは興味を持ったようだった。
「働いてみる? ここからそんなに遠くない。シフトは仕事終わりで大丈夫らしいよ」
「勢い余って私、客のこと殺すかも」
レイナは冗談を言ったが、僕には笑えなかった。