5話
僕は家に帰って一人でコンビニ弁当を食べていた。その時、ガールズバーの経営者からまた電話がかかってきた。
「やっぱりレイナをうちにくれよ」
彼はなんでもなさそうに言った。
「キャバクラだったらあいつも了承するかもしれない」
「キャバクラねー」
経営者はそう言って何か不満そうにしていた。
「何か理由でもあるの?」
「キャバクラは面倒なんだよ。いろいろと裏の世界とつながりがあるからさ。俺の経営してる店は客と女が適当に遊んでいるからさ。それでも儲けがでるんだよ」
「それって楽しいの?」
「別に。普通に仕事してるだけだよ。でも売り上げが落ちるのは困る。そこらへんはちゃんとやらないといけない」
彼とウイスキーを飲みながら数十分通話した。それで彼の店のウェブサイトを見たらコスチュームを着た女性が客に接客する店だとわかった。
僕はどうでもいいやと思いながら、レイナにその話をしようか迷っていた。レイナはもう二十台後半だ。子供だって産めるけれど、もちろん彼女はそれを望んでいない。
僕だって別に子供が欲しいわけでもなかった。コンドームが発明されたんだから子供なんか作らなくったっていいなんて考えていた。
頭の中の思考回路を様々なことが支配していく。僕だって吸血鬼ではないけれど、一応人間なのだ。人ばかり殺しているレイナになぜか無性に嫉妬してしまうときだってある。僕にだってプライドはある。それがなんだかはわからないけれど。
鍵の開く音がした。レイナが帰ってきた。
「ただいま」
やけに優しい声だった。
「どうしたの?」
「さっき取引先のイケメンと飲んできた帰りなの」
レイナはやけに嬉しそうだった。僕は内心ばかばかしいと思っていた。僕だってレイナを突き放して浮気することだってできる。でも僕の心の中にはどうしても彼女がいた。それだけが悲しいことだった。だから彼女が望まなくとも僕らはこうやって二人で暮らしている。
「そのイケメンはどんなやつだったのさ?」
「すごいスポーツマン。俳優みたいにさわやかだった。とってもトークがうまかった」
彼女は明らかに酔っていた。それでそんな話を僕にしていた。僕は興味なさげに嫉妬しながら彼女の話を聞いていたのだ。
夜の部屋の中はやけに静まり返っていて、僕はその静けさが何か嫌でテレビをつけた。ニュースがやっていて、中東で紛争がおきて戦車が町中を走っている映像が映し出された。
「宗教に関してはどうなのさ?」
僕は彼女に暗に聞いた。
「そりゃあもちろん」
彼女は言いたくなさそうに、そして興味なさげに僕に言い放った。