2話
夜の時間が深まっていったとき、レイナが帰って来た。目は血走っていた。黒いビニール袋を片手にもっていた。
髪の毛が片目にかかっている。あれでも地上を支配している吸血鬼だ。
「おかえり。レイナ」
「ただいま」
僕は歴史を思い出した。
「今でも吸血鬼が隆盛を振るっている時代なんだろ? 世界中で争いが繰り返された。そして君らはいつも英雄視されていた」
「そんな時代もあったわね」
レイナはどこかうれしそうに見えた。洗面台で歯を磨いている。僕は彼女の後ろ姿を広めのマンションの中で見ていた。
「今日は誰を殺したのさ?」
「男を一人。少女を強姦しようとしていたヤンキーだった」
「ヤンキーなんているんだね」
「ぼこぼこにしてやったわ。内臓を引き裂いて、そして顔面をばらばらにしてやった」
「かわいそうに」
「どうしても私の中の衝動が収まらないのよ」
「それは悲しい事?」
「別に。だってそれが私だから」
レイナは謎の薬を数錠口に含んだ。
「煙草よりずっと好き」
レイナはそう言って少し笑った。
僕はそんなレイナのことをただ眺めていた。背が高くて美人でまるで女優みたいで、でも彼女は猟奇的だ。
それで僕はそんなレイナが好きだった。
「ねえ、私のこと殺そうと思ったことある?」
レイナは僕に聞いた。
「そりゃあ。だって君がベッドで僕のことを殺そうとしていた時があったから」
「やっぱりそういうのってわかるのね」
「それでね、僕は君を殺す想像で満足しているんだよ」
「いっそのこと殺してくれればいいのに」
レイナは冷蔵庫からウイスキーを取り出して瓶のまま飲んでいた。僕はソファの上でスマートフォンをいじってニュースを眺めていた。特にすることもない。
そろそろ寝る時間だった。
「もう寝ようよ」
僕は言った。
「そうしましょ」
二人でとても大きなベッドに横になった。とてもふかふかしていて気持ちがいい。僕は正直言って幸せだった。それでレイナは特に疲れているように見えた。
「レイナ」
僕は知っていた。彼女が人を殺めたあとに泣いていることを。
レイナはずっと後ろを向いていた。それで僕たちは会話もしないまま、目を閉じていた。すぐ近くにレイナの体があった。今日は何も感じなかった。ただ穏やかすぎる夜だった。
レイナは体を振動させていた。きっと恐怖に震えているのかもしれない。僕はそのことをレイナには言わないようにしている。
だって彼女は常に自殺の目前にいるから。本当に些細なことで彼女はこの世から去ってしまう。