最終話
僕はレイナの死んだ世界ですごく静かに生きていた。部屋の中はあの日のままでレイナが丸めたパジャマは記念に置いておいた。そして僕はいつも通り部屋で朝食を作りコーヒーを飲み会社に出勤した。
会社ではプロジェクトのリーダーを任された。とある会社の、それは製薬会社だったが、化合物の探索ソフトを作るという仕事だった。
大体取引先の人が考えたシステムを実際にソフトウェアにするだけだった。僕はまるで子供のようにそのプロジェクトに夢中になっていた。メンバーにあらゆる仕事を割り振り、そして自分自身もずっと仕事していた。
「最近、元気ないですね?」
後輩の女の子が僕に聞いてきた。
「そうでもないよ」
僕は彼女に笑って答えた。
「すごく一生懸命仕事してるように見えるんですけど、なんか顔色が悪いなって」
僕はその時、少しだけ彼女に惹かれた。レイナのことをもう忘れてしまうのかなんて思った。吸血鬼がこの世界にいることは彼女には黙っておこう。別に言ってもいいのだけれど、それは彼女の抱いているロマンスを破壊しかねない。
そんな風に僕は思った。
ごめんね。レイナ。僕はこういうやつなんだ。君のことを愛していながら、同時に失えば他の女にひかれてしまう。まぁ男なんてそんなもんさ。
その日、仕事を僕は深夜まで行った。メンバーの誰よりも遅く会社に残っていた。僕にしてはめずらしい。
職場から歩いて電車に乗り、その日家に帰った。帰り道の街灯がやけに明るくて、空はとてもきれいだった。美しい冬の空だった。風が吹いている。雲が空をゆっくりとそして優雅に流れている。僕はそんな光景をなんとなく眺めていた。
心に残る寂しさと傷はなんだろう。僕もレイナみたいになろうかな。別にそんな衝動もないけれど。少し人間なりに自由に生きようかな。職場の後輩とも付き合ってみようかな。
君のことをずっと覚えているよ。君の魅力も愛嬌も攻撃性も優しさも。すべて僕が愛したところだった。
ねえ。僕も君の後を追おうとしていたんだよ。あの手紙を読んだ後、さぁてどうやって楽に確実に死のうかなんて考えたんだ。
馬鹿みたいだろ。僕だってお前のことがわかるよ。すべてが馬鹿らしいよな。僕たちは本当に気が合ったなあ。君と話をしていてまるで楽園にいるくらい楽しかった。
天国なんかないけどさ、あったらいつか会いにいくよ。でもないんだよな。もう二度と会えないからこんなに寂しくて悲しいんだろうな。またな。レイナ。愛していたよ。本当にこんな感じなんだよ。僕はな。




