9話
「疲れたわ」
レイナは僕にそう言った。あいにく僕はベッドの中にもぐりこんでいた。だからレイナが帰ってきたときぼんやりのそのことに気が付いただけだった。
「ねえ」
レイナは僕の隣の大きなベッドにもぐりこんでくる。
「何? レイナ」
僕と彼女はベッドの中でキスをした。唇と唇が触れ合っただけだった。心の距離は果て無く遠かった。僕は時にそんなことを悲しく思ったりもした。
レイナはベッドの中で無言だった。僕はどうやら深刻に物事を考えすぎてしまうらしい。
僕はたまたまレイナの隣で目を閉じて、空を飛ぶ想像していた。するととても心が安らいだ。
何かを考えているということはとても心が安らぐ。そしてそれを失ってしまった時、僕はきっとレイナの抱える悩みなんかよりはるかに小さいけれど、吸血鬼みたいなものかもしれない。
「君の飲んでいる錠剤を僕も飲んでいいかな?」
僕はそう問いかける。
「別にいいけど」
僕はやけに眠れなかったのだ。好奇心だった。錠剤はすぐに僕の頭をぼんやりとさせて眠りに引きづりこもうとして、辺りの視界が歪んで見えた。それが薬のせいか、僕の脳の抵抗なのかどちらかはわからない。
「ぐっすり眠れるわ」
レイナは少し無邪気にベッドの中に寝転がりながら笑った。一瞬冷たい風が吹いた。僕が長い間愛していたレイナ。いつの間にか彼女なしでは生きるのが寂しくなってしまった。
僕とレイナは二人で気まずくベッドの中に横になっていた。レイナは普通の服を着ていた。それで僕はそれを奇妙に思った。いつ着替えたのだろうか。
レイナはすぐに僕の隣で眠った。僕には全く理由はわからなかった。なぜ彼女がそうやって普通に日々を生きていられるのかが。
すごく気まぐれにさえ思えた。
隣で眠るレイナの横で僕はずっと目を閉じた。薬が少しずつ僕の脳を鈍感にさせていく。それで眠りにつきそうになる。ぐるぐると頭の中で何かが回転している感じだった。
僕は会社で一度だけ海外の客と話をしたことがあった。彼はトルコに住んでいた。日本にわざわざ僕の会社のソフトを買う契約をするためにやってきたのだった。彼の風貌は欧米人と違いが見当たらなかった。背が高くてがっしりとしている。
僕はそんな彼を接待で居酒屋に連れていったのをなぜか今思い出した。
特に理由なんかないだろう。僕は眠る前に昔の記憶を思い出したりする。そして隣で眠るレイナの存在をただ感じていた。彼女に前向きに生きてほしいと思った。




