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争奪戦

あたりの空気と同じくらい、顔の皮が張り詰めている感覚がする。
空を見上げながら吐いた息が真っ白だった。ぐっと鼻までマフラーに埋もれてみる。大した防寒にはならない。ああ、師走の深夜とはあんまりむごい。こんなに帰りが遅くなるとわかっていれば、もっと厚着なりなんなりしてきたのに。街灯のない道だから、という理由で転がしている自転車がかしゃろかしゃろと不穏な音をたてる。無断欠勤で僕の労働時間を増やした高校生バイト。唇を開くのが億劫な僕の代わりに奴への悪態をついているようだった。   
川沿いの道に差し掛かったとき、俯いた視界の端をふと橙色がちらついた。何の気なしに顔を上げると、光の出どころは神社のようだった。小さな神社で、特に名前も知らない。寂れたブランコと滑り台が境内にあるから、ここらの人々は神社公園なんて呼んでいるところだった。普段景色の一部として全く意識しないでいるそこから、微かな灯り。なぜだかやたら気になって、相変わらずうるさい自転車を一度止めてみる。
塗装が剥げて薄桃色になった鳥居をくぐると、光の正体はすぐにわかった。屋台。祭りでよく見かける、あの屋台だった。安っぽい水色のビニルが冷え切った夜風に揺れている。葉の落ちた木々の背景と、佇むその屋台はひどく不釣り合いだった。
「なんこれ。」  
億劫さを押しのけて感想が舌の先から溢れる。
金魚、すくい。
屋台はひどくありふれた名前をしていた。浮かれた喧騒のなかで流れていくのが常であるはずの文字列は、静謐な境内の中でただじっとしている。恐る恐る、といった調子でそちらへ歩みを進めてみた。
「いらっしゃい。」
 屋台の正面に立ったとき、やわらかい声がかけられた。僕はその主人の姿に、目を瞬く。
「誰?」
 主人はまるで、それこそ花火大会かなにかから迷い込んできたかのようだった。彼女は紺色に金色の大花という柄の浴衣をまとっている。僕の問いかけに首を傾げた彼女の長い黒髪が、ゆぅるりと流れた。屋台の天井から垂れた裸電球の灯りが、長い睫毛に縁取られた瞳を潤んで見せている。襟から覗く首筋はほっそりとしていた。
「金魚すくい、いかがですか。」
 ほんわか、という形容詞がこのうえなく似合う口調だった。主人に釘づけにされていた視線がその言葉で改めて屋台の内部に向いた。足元を金魚が泳いでいる。四角いプールを大小様々な色彩が行ったり来たりしていた。ヒレが優雅に踊るたび、水面に波紋がたつ。それはまぁ、当たり前に金魚すくいだった。
「金魚すくいって…いま、冬だけど。」
「冬ですね。」
主人は瞳を細めた。唇が穏やかに歪む。
「浴衣、寒くないの。」
「寒くありません。だって冬より夏のほうが素敵でしょ。」
「そう、いうもの?」
どうにも噛み合わない会話。長引いたバイトで疲れているのかなぁなんて思った。白昼夢のような、いや、白昼ではないけれど。
「金魚すくい、いかがですか」」
主人が同じ文句を繰り返す。
「お代は?」
「結構です。」
「結構なの。」
「結構です。」
「はあ、まあ、それなら。」
言われるまま、気がついたらポイと椀を構えて屈んでいる。光が水面を漂っていた。ゆっくりとポイをそこに差し込む。小さくて赤いのが目について、僕はそいつに狙いを定めた。いまだ、と水からポイを持ち上げたとき、金魚はそこにいなかった。突拍子もないタイミングで曲がった小さいのは、水で弱った和紙を華麗に突き破って悠々逃避行の先を泳いでいる。
「あら、残念。」
 主人は悪戯っぽく微笑んだ。僕はもう使えないポイを返して、それから指先に息を吹きかける。持ち上げた拍子に跳ねた水が指先に当たったとき、ひどくひどく冷たかったのだ。
「もう一回やってみますか?」
まだ椀を持ったままの僕の左手に目をやりながら、主人が悪戯っぽく微笑む。
「お代は結構ですから。」
 尋ねる前に先回りされた僕は、むんと頷く。かじかむ指先を誤魔化すべくグーパーを何度か繰り返して、いざ再挑戦。今度はさっきよりも動きが鈍いのを狙った。じぃと、そいつを見据える。今度は出来るだけ素早く、ポイの隅に金魚をのせてやる意識だった。ぎりぎりまで椀を近づけてから、ぱっと水ごと金魚を攫う。瞬きのあとには、底の歪んだ椀のなかを金魚が窮屈そうに泳いでいた。主人はにこにこして手を叩いている。
「お上手、お上手。」
 ただしポイにはもう穴が開いていて、これ以上は望めそうにない。僕はポイと、金魚の入った椀を主人に渡す。彼女は何時の間にか取り出した透明の袋に、椀を傾ける。ぱしゃと金魚が流れ込んだ。赤い糸のような紐で口を閉じてから、主人は僕にそれを差し出した。
「どうぞ。」         
「ありがとう。」      
「またいらしてくださいね。」
なんとなくで金魚を受け取った僕は、主人の言葉に腰を浮かした。薄桃色の鳥居をくぐって、また口うるさい自転車を転がして帰路に戻る。相も変わらず空気は馬鹿みたいに冷えていた。頬のあたりは痛いほどで、手の甲を当ててみるとあっという間に熱を奪っていく。
 金魚を顔の前に掲げてみる。 
 水の向こうに見える暗い道。道端の花壇は空っぽ。視界の中の色彩と言ったら、袋の中の金魚の朱色だけだった。どうにもこうにも無味無臭の風景のなかで、それはもういやに鮮やかだった。
*             
翌日、枕元の古い金魚鉢を目にしなかったら、僕は間違いなくあの屋台を夢とみなしたことだろう。それでもって、すっかり寝静まった家を抜け出していまここにいたりもしなかったろう。でも確かに、部屋には金魚鉢があって、その中には金魚がいた。だから僕は神社公園の入り口で、件の灯りをぼんやり眺める。今日も、当たり前ながら辺りは物音ひとつしない。足元から侵食してくるような冷えも昨晩と大差ない。それでも、そこには金魚すくいが居る。
「いらっしゃいませ。」    
 電球の下で、主人と無数の金魚が微笑んだ。足元の朱色は、確かに自分の部屋に持ち帰ったあれとおんなじような色をしている。
「毎晩ここにいるの?」
 今日の主人は山吹色の浴衣を着ている。
「そうですね、年の瀬ですから。」
「金魚すくいって、ふつう夏祭りなんじゃあ」
「そうなんですよ。でも、だからこそ。」
 主人の唇はまるで寒さなんて気にしていないような紅色。その唇が動いて、また白昼夢じみた返答をされる。なにを言ってもこんな調子なのではないかと思われた。そしてそのあとにはお決まりの言葉が続く。
「金魚すくい、いかがですか。」
「お願いします。」
 主人は僕にポイと椀を差し出した。それを受け取って、屈む。
「なんで年の瀬に屋台を出すの。」
 どうせ曖昧な答えしか返ってこないのなら、いっそアレコレ訊いてみようと、目線は金魚に据えたまま口を開く。主人も僕の手元に視線をやっていた。これから捕えられようとしている金魚たちに限って、こちらを見ていない。     
「年の瀬には毎年、来年の夏をかけて戦うのです。」
 案の定、なんとも意味の掴めない回答を頂戴する。僕は曖昧に相槌を打って、順々に金魚たちを品定めする。遅いのもいれば速いのもいる。おや、今の急な方向転換はもしや昨日逃した小さいのでは。実際のところ金魚の見分けなんて全くつかないけども、当てずっぽうで今宵の標的をそいつに決める。
「戦う…相手は?」
 ポイを構えながら尋ねてみる。主人は笑みを崩さないが、少し困ったような色をにじませた。
「冬です。前回は負けました。ひとびとは冬のほうばかり愛しました。」
「負けるとどうなるの?」
 いざ、というところで金魚はヒレをはためかせて急発進した。危ない、ポイを水につける前でよかった。
「負けるとですね、翌年は冬の勝ちです。」
 小さいのがふっと速度を緩めた。僕はすかさずポイを水に突っ込んだ。椀の上で手首を返すと、小さいのがそこを泳いでいる。
「ふふ、昨日よりずっとお上手。」
 椀を差し出すと、主人の大きな瞳と目があった。つややかだった。月並みに、吸い込まれてしまいそうだなんて表現が浮かぶ。主人はまたぱしゃっと袋に金魚を移す。今日の袋の紐は緑色だった。
「明日の晩もいる?」
主人はふと僕の左腕を指差した。不思議に思いつつも腕を差し出すと、紐を手首にかけられる。そうして、彼女は瞳を細める。
「いますよ。冬みたいな夏は嫌ですもの。」
*      
 出目金に挑戦してみた。目ん玉の重さで、ポイは呆気なくダメになった。二度目は諦めて、大人しく白と赤の混じったふつう金魚を狙う。冬みたいな夏、というのは今年の冷夏のことだろうかふと思い当った。でもそれならエルニーニョ現象の所為だって、地理公民の教師が番所をしていたはずなのだけど。ポイと椀を返すとき、そう言おうとしてやめた。気が向いたら明日話してみようと、屋台を後にする。主人はにこやかに僕に手を振ってくれた。家に着いてから、窓辺の金魚鉢にその白赤の金魚を入れてやる。水草もなにも入っていない殺風景ななかを泳ぐ三匹目。鉢のすぐわきには、それぞれ赤と緑の紐が通った袋。そのうえに今の今まで金魚の入っていた袋を重ねる。      

出目金に再挑戦した。ポイはあっという間に二つ駄目になる。さすがにお代を取られるのではないかとがま口を取り出した僕に、主人はあっけらかんと「結構です」と言った。三回目でようやく椀に収まった出目金は、なかなかの迫力。主人はひときわ響く拍手を送ってくれた。僕は結構それが嬉しくて、エルニーニョがどうたらこうたらの話はもうすっかりどうでもよくなった。それに、なんだかそんな話をこの主人にするのはお門違い。漠然と、根拠はないけれどそう感じた。

主人がマフラーを指して、地面についていると指摘してくれた。僕はマフラーを外して彼女に預け、袖をまくった。ちらついていたそれがなくなっただけで視界が随分と開けたような気がする。白に赤ブチの金魚はあっけらかんとあっけらかんと僕の手首にぶら下がる。あとでマフラーを受け取り忘れたことに気がついたけれど、そのおかげで空いたタンスのフックに今まで貯めていた金魚の袋をまとめてかけた。ビニールに通される紐の色は毎日違う色をしている。主人の浴衣と一緒だ。

そうして、金魚すくいに通うようになって、七日目。僕はしれっと風邪を引いた。

目を覚ましたとき、窓の外はべったり塗りつぶしたみたいに黒かった。喉がひどく乾いているような感覚を覚えて、枕元のコップを探り当てる。水を口に含んでみたけれど、どうにも乾いた感覚が消えない。そこでようやく、ああ風邪を引いたんだったなと思いだした。学校を休んだ僕はただ一日中金魚を見ていた。水槽の中の金魚は七匹にまで増え、心なしか息苦しそうに見えた。可哀想だなぁと思う気持ちは確かにあるのだけども、一方でどうにもそのびっしり覆い尽くされたといったような雰囲気が好きだ。赤白のヒレが出目金の大きな目を掠る。出目金の陰からオレンジ色がちらと覗く。そのうちあの間隙もぜんぶ金魚で埋まったらどんなによかろ、なんて。空想をしているうちに眠ってしまっていたらしい。寝起きの頭は芯が痺れたようで、うまく物事を考えられない。コップの水をいっぺんに飲み干すと、妙なところに流れ込んでしまったらしい。むせこんで、咳が出た。一度出るとどうにも止まらなくて、ひとしきり咳込んだあとだった。
おや。と思った。
「火薬のにおいがする。」
 呟く声は枯れていた。咳をしたあと、鼻腔をくすぐったのは煙と、なにか焦がしたようなのとが混じったにおいだった。手元のコップを覗く。底はきれいに空っぽだ、なにか変なものが入っていた気配はない。寝台脇のスタンドライトをつけて、部屋を見回す。蛍光の灯りに照らされたのはなんの変りもないカーテンにラグにタンスに。特別なにかが燃えたなんてことはなさそうだった。僕は、そうっと右手で口元を覆ってみた。すると、する。火薬のにおいだ。僕は手を顔の前に翳して、まじまじとみる。火薬はどうやら、咳を受け止めた僕の手のひらから香っているようだった。
 翳した手のひら越し、改めて外の風景が目に入る。暗い、真っ暗、夜、橙色の灯り。
「行こう。」
 そのときまた咳が出た。火薬のにおいがした。僕を見送る金魚たちは、ヒレを振っている。

 時間も確認しないまま家を出てしまったから、そこに屋台が在るかは多少不安だった。けれども川沿いの道に出たとき確かにその灯りが見えた。
「よかった」
 油をさしていない自転車は相も変わらずうるさい。入り口にそれをとめて静かにさせてから、駆け足で境内へ。金魚すくいの文字の載った水色ビニル。その下に、今日も主人はいた。
「いらっしゃい。」
 主人のその小さな唇で、いつも通り「金魚すくい、いかがですか」と続くだろうと思った。けれど、そうは来なかった。彼女は確かにそれを言いかけたようだったけど、止まった。すっと笑みが引っ込んで、どこか呆けたような表情が浮かぶ。
「お風邪ですか」
 主人の笑み以外の表情をはじめてみた。主人のほうから僕に問いを投げかけてきたのもはじめてだった。なんとも言えない気持ちがこみ上げて、僕はただうなずく。
「それは…風邪は冬のものですよ。だってあなたはかしこい人だもの。」
 主人のきれいな眉が下がる。
「確かに冬になると風邪をひく。風邪は嫌いだ。」
 ポイも椀もなしに主人と言葉を交わすのがなんだか妙な感覚だった。けれども僕は言葉を続ける。風邪の所為なのか、それとも眠気の名残なのか、ろくろく考えないままただただ口が勝手に動く。
「でも夏なら風邪は普通引かない。それに、夏には金魚がいる。」
 風邪、部屋の鉢、泳ぐ金魚。
「だから、僕は、一年中ずっと夏ならいいのにって思う。」
 思考を経過していない言葉が、彼女の瞳を見開かせた。元来大きな黒目だから、うっかり淵から零れ落ちるんじゃないだろうか。主人はなにか考えているようだった。それから、細い指で僕を指差す。
「寒くないですか。」
 問われて、僕は自分の姿を省みる。紺色のパーカー一枚と、ジャージのずぼん。そういえば上着もなにも着てこなかった。けれどもどういうわけだろう、ちっとも寒くないようだ。
「寒く、ない。」
 答える。主人の表情に、笑顔が染み出す。
「どうしてですか。」
「どうしてかは、わからないけれど。」
「もう少しです。もう少しできっとわかります。」
 いつもただ一様に穏やかだった主人の声が弾んでいる。そのとき不意になにかこみ上げるような感覚があって、僕はまた咳込んだ。げほ、げほ。手のひらから、件の火薬のにおいがした。
「咳をすると火薬のにおいがする。」
 どういうわけか、主人に話さなければと焦燥とも義務感ともつかないものに駆られた。
「かやく?」
 主人が咀嚼しているのがわかった。そしていよいよ、その顔がぱっと笑顔一色に染まる。
「ああ、火薬は夏のものですよ。風邪は確かに冬のものですけれども、火薬は夏のものですよ!」
 不意に主人が手を叩いた。ぱん。破裂音。合わさった彼女の手のひらからそれが鳴った瞬間、僕の喉からまたなにかこみ上げる。けほ。咳が出た。咄嗟に覆った右手から、また火薬。
「夏を愛してくれたのでしょう。」
ぱん。けほ。主人が手を鳴らすと、また咳が出た。火薬のにおいが濃くなったような気がする。
「それならば、あなたを冬のものから奪還して差し上げますわ。」
 俯いた拍子に金魚たちの泳ぐプールが目に入る。鉢いっぱいの金魚。空想したそれに、これは案外ほど近い。
「ほら、ほら、もう少し。」
主人が手を叩く。ぱん。げほ。
ぱちん。
指の隙間から、手拍子とも咳ともつかない音がする。僕は右手を口元から外す。手のひらが、熱い。薄っすら腫れているようだ。ヒリヒリと痛む。なにが起きたのだろうと考える間もなく、再び手拍子。
 ぱん。ぱちん。
目の前を火花が散った。すぐに掻き消えてしまうそれの儚さを、手拍子が追う。
 ぱん。ぱん!
 こみ上げてくる何かが大きくなったと思ったら、それはもはや咳ではなかった。火花でもなかった。薄緑色をした自分の唾液の塊が、いや、単に光が。空気に飛散したのが一瞬見えた。しかしそれは次の瞬間にはまん丸く開いていた。あとには煙がわずか漂っている。主人があはっと声を上げた。僕は尻餅をついた。
「ああ。あなたは夏のものになれる。」
 主人が金魚のプールをまたいで越えて、僕の前にしゃがみ込んだ。浴衣の色はうそみたいに鮮やかな紅色。そのとき、唐突にジッと音を立てて裸電球が尽きた。それでも、僕が今まで頼りにしてきた橙色の灯りは消えない。浴衣の襟から覗く細い首、その先からの灯りだった。僕は主人を見つめる。紋の入った和紙の向こうで、ゆうらゆうら炎が揺れている。それは彼女の潤んだ瞳の中に似ていた。吸い込まれる、と僕は月並みな感想を抱く。
「あなたは、夏のものだったんだ。」
 僕は言う。喉の酷い乾きはなくなっていた。目の前の提灯は静かに首肯する。
「あなたは、冬に勝とうとしている。だって冬より夏のほうが素敵だから。」
提灯はまた首を縦に振った。僕は彼女をじぃと見つめた。
「それなら、ねぇ。」
 提灯は、彼女は、微笑んでいるように見える。
「僕はそのために、夏のものになりたい。」
 ふっと視界が橙色の灯りで覆われた。提灯が僕に口づけをしている。そのまま唇を割って舌に絡みついてきたものはひどく熱い。それはそのまま僕の喉を通っていく。僕の口から落とし込まれた彼女の炎は、腹の底でなにかにうつって、そして爆発した。提灯は僕から唇を離す。僕は空を仰いだ。冬の星座が瞬いていた。
「僕は」
 こみ上げてくる。僕は大きく口を開けた。
「夏のものになれる!」
 叫ぶと、光の筋が喉の奥から飛びだして夜空の一番真ん中を割った。ひときわ大きな破裂音が響く。金色ぱっと丸く開いてから、光の粒を落としながら空から垂れる。輪郭のない筋がしゅわしゅわ音を立てる。僕が望むたびに破裂音は鳴って、空を覆う金色は増える。きらきらと無数の光がすっかり隙間ない。僕はひどくすがすがしい気分で、全くどうして今までこうしなかったんだろうと、その枝垂れ柳を眺める。もう身体中から火薬のにおいがした。

「あなたは、夏のものですよ。」

 花火の下で、顔のない提灯が笑っていた。僕も笑って、彼女の手を取った。

風邪ひいてせき込んだらなんか火薬臭かったから書いた

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