初めての女の子
「はい整列! おお! みんな似合ってるじゃないか!」
校庭。
2台の馬車の前で横一列に並んだ子供たちを見て、校長は満足そうに頷いた。
「こいつらって、和服持ってたのか」
「はい。前に仕立て屋さんに来ていただいて、その時に」
校長の背後、馬車の隣に俺と並んで立った千沙に、俺は小声で聞いた。
てっきり、召喚されてきた時に着ていた洋服しか持っていないのかと思ったが、
俺の視界には和服を着た少年少女が4人映っている。考えてみれば当然か。
江戸時代の街に洋服なんか着て行こうものなら、好奇の的に違いない。
喜多見も、レイチェルも、凜も、よく似合っているが、
虎だけは、成人式ではっちゃけるヤンキーにしか見えなかった。
「よーし! それじゃあ馬車に乗り込め!
千沙は喜多見とレイチェルと一緒に左の馬車へ。
遥子は俺と虎、凛と一緒にこっちの馬車だ!」
……遥子。俺は遥子。
ちょっとここで、昼食から、ここに至るまでのことを回想しよう。
以下は、全て校長の言葉である。
《そんな服目立ってダメだ! 和服で行け!
何? 和服がないから、部屋着にもらった甚兵衛でいいか?
ダメに決まってるだろう! お前、甚兵衛で街を歩くとかアレだぞ!
……死ぬぞ! 俺が着物を貸してやる! 何だ五味ちゃん!? え?
自分の替えの和服を遥人に貸しますって? 馬鹿か! お前、それはあれだぞ!
……死ぬぞ! だから、お前は俺の着物を着ていくんだ! いいな!
お前にこれ以外残された道はないんだ! これは校長命令だからな!
待て! 逃げるな遥人! お前ら、奴を捕まえろ! 絶対に逃がすな!》
というやり取りが先ほどありまして、
今の俺は、大胆に胸元と太ももを露出したショッキングピンクの着物を着て、
顔と、露出した腕や足にお化粧を施されて、茶髪ロングのかつらを被せられて……
「死にたい」
俺は、
「ぶ、ぶふっ! よ、よく似合ってるよ。 は、はるこちゃ……ぶふっ!」
五味先生からの熱い励ましに胸を打たれ
「か、くぁ~わいい! なにこれ! やっべ! あたし目覚めそうなんだけど!
扉が開きかけてる! 開けていいかな!?」
興奮のあまり素の口調に戻ったタビーさんからお褒めにあずかり
「きっしょ」
可愛い教え子から
「あんな。うちな。ほんまごめんなんやけど、
今後、あんまりうちに話しかけんといてほしいなって」
沸騰しそうなほどに、心温まるお言葉をいただき
「なあ遥子。俺と一緒に、二丁目で天下を取る気はないか?」
尊敬する校長からは、そっちの道で覇道を歩もうと……って、
「ざっけんな! 言いたい放題言いやがって!」
「やぁん! 遥子が怒ったわ。こわぁいん。きゃっ」
「何がきゃっ。だ! 俺をおもちゃにしやがって!」
激高する俺に、校長が手招きした。なんだ? 懐柔でもしようってのか?
やれるものならやってみろ。何を言われても、絶対に屈したりなんてしないぞ。
意気込む俺の耳元に、彼女の艶やかな唇が近づき――
「おい。言うこと聞かないと、そっち系のやつ教師に雇って、
千沙と交換で、そいつとお前を相部屋にするぞ?」
「さあ。参りましょうかお姉さま」
私は権力に屈した。