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グレートティーチャー金八先生

「いやぁ、先ほどは助かりましたよ。彼ら、私の言うことを聞かないもので」

 

 校舎1階の職員室。

 自分に割り当てられた教師用の座席に着席すると、

 隣の席に座る男、校庭で右往左往していた冴えない中年が声をかけてきた。


「ああいうのは、ガツンといかないとダメですよ」


「そうしたいのは山々なのですが、何分彼らはとても……強いものですから」


 ばつが悪そうに禿げあがった頭をかく彼は、教師の一人、五味忠良ごみただよし

 主に霊術について教えている先生らしい。

 

 相当にレベルの高い霊術師らしいが、その彼が強いと言うのだ、

 あの幼神なる子供たちは、半端な強さではないのだろう。


「ですので……授業の際は立ち合いの程、よろしくお願いします。遥人先生・・・・


 そう。

 なんと、ただの高校一年生である俺は、教師をやるために、

 この和風な世界に異世界転移させられたのだ。


 なんでも、ここには俺より前にチビッ子たちが先に召喚されてきていて、

 先任教師と共に、俺にそいつらの指導を任せたい……らしい。

 

 といっても別に、算数や国語を教えるわけじゃあない。

 俺の役割はあいつらをちゃんと叱ること。

 この世界の大人たちには、中々それが出来ないのだ。

 

 何故かって? 

 それは五味さんが言った通り、あいつらが滅茶苦茶に強いから。

 だから、いい年こいた大人の誰も彼もがあいつらに強くでれない。

 

 さっき俺がぶん殴ったクソガキだって、一言注意しようものなら逆上、

 火の玉連発、元気玉発射で返りうちって結果になるだろう。

 実際、俺を焼き殺そうと躍起になっていたしな。

 

 ——でも、俺は違う。

 

 理屈は分からないが、俺は霊術が効かない体質なんだそうな。

 クソガキにぶつけられた炎だって、熱くもなんともなかった。

 なんせ、触れた瞬間に光になって消えていくから。

 

 つまり、俺はこの世界であいつら神扱いのガキどもと、

 唯一普通に接することの出来る人間というわけだ。

 

 姫様曰く、何やらとある目的のために召喚したが手に負えなくて、

 何とかできる人間を慌てて召喚したのだという。

 

 慌てて召喚された、可哀そうな人間が俺ね。

 

 異世界まで来て子供のお守りとは泣きたくなるが、

 目的が済めば俺たちまとめて元の世界に帰してくれるらしいから、

 それまで精々教育に励むこととしよう。

 

 さて、まずはコミュニケーションを始めますか。

 職場の同僚との円滑な人間関係は、仕事をするのに必要不可欠と、

 今は遥か彼方に過ぎ去った親父殿が言ってたしな。


「様なんていらないですし、俺のが年下なんだから敬語もいいです。

 同僚なんですから、気楽にやっていきませんか?」


 雷にでも打たれたような、五味先生の表情。

 青白い顔から、牛乳瓶の底みたいなガラスの付いた眼鏡がずり落ちていった。

 机の下へと潜り込み、落ちた眼鏡ほんたいを回収した五味先生が顔を出すと、

 どういうわけか、満面の笑顔へ変貌を遂げていた。

 

 予想外の変化を遂げたその顔が、般若にでもなられたら困るので、

 俺は逃げるように席を立った。もうすぐ授業のチャイムが鳴る。


「待ってくれ遥人くん。同僚から、君への餞別せんべつだ」


 どうやら五味先生は、眼鏡を拾うついでに机の下から何かを出してきたらしい。

 

 手渡されたのは、千沙と五味先生が着ている——黒い羽織だ。

 新選組で有名な青い奴の様な派手さはないが、これも渋くて悪くない。

 

 シンプルなデザインだが、背中に桜をあしらった代紋が入っているのが、

 なんともお洒落で高ポイントだ。

 ただ、一つ問題を挙げるとするならば、今のTシャツ&ジーンズ姿には、

 絶望的に似合わないであろうということだろうか。


「それは私たち教師の制服のようなものだよ。

 後日、その羽織が似合うような和服を仕立てに街に行くから、

 それまで楽しみに待っていてくれ」


 俺は感謝の言葉と共に羽織を受取った。

 防御力アップとかそんな効果はなさそうだが、誇りとか、責任とか、

 そういうものはグンとアップしたような気がする。

 

 俺は羽織をバサッと格好良く翻して、教室へと進路をとった。

 

 今の俺は学生ではない。教師だ。責任を持って生徒を導いてやろう。

 

 例え生徒が、初対面の相手に

 『必殺ファイヤーボール』

 をぶつけようとするクソガキだろうが、俺は絶対に見捨てたりしないぜ。

 

 そう、あの伝説レジェンド――金八先生のように。

 

 教室に着いた。ていうか、職員室の隣だった。

 

 引き戸に手をかけて深呼吸する。ここから俺たちの青春は始まるのだ。

 勢いよく扉をあけ放って俺は言う、精一杯の爽やかさと、期待を込めて。


「さあ! みんなこれから一緒にがんば……えぇ…………」


 生徒は二人しかいなかった。

 教壇の前で、俺の待女兼教師の千沙が涙目になっている。

 

 俺は逃亡中のクソガキ二名を発見即殲滅(サーチ&デストロイ)すべく、

 そのまま無言で教室を後にした。

 

 え? 

 金八先生レジェンドはそんなことしないって?

 

 

 金八先生(レジェンド)は死んだ。 

 今から俺はグレートティーチャーだ。


 

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