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~緊急速報~ 俺、逮捕される

 拝啓。

 お母さま。

 そちらは寒い日が続いていると思いますが、如何お過ごしでしょうか? 

 急に私がいなくなったので、大変驚かれていることと思います。

 そろそろ、警察に私の捜索願を届けられているかもしれないですね。

 そうそう。警察と言えば、私は今、警察のご厄介になっております。

 それでは婦警さんが呼んでおりますので、行ってまいります。

 では、お体に気を付けてお過ごしください。敬具。


「おら! さっさと起きろ!」


「わっぷ!」


 気絶していた俺は、顔面に水をぶっかけられて目を覚ました。

 俺を暴行した内の一人、縞々のお姉さんが桶を持って他っている。

 仁王立ちするお姉さんの向こうには、鉄格子が見えた。

 

 ここは檻の中のようだ。

 下は土がむき出しになっていて、雑に寝かされていた俺の服には、

 泥と水が付着して汚れていた。卸したての新品が……悲しい。

 見ると、俺の左腰から刃桜が消えていた。没収されたのだろう。

 折角、俺のために用意してもらったのに、姫様ごめんなさい。


「ついてこい!」


 汚物を見るような目で俺を見下ろしていたお姉さんは、

 吐き捨てるように言うと檻から出て行った。

 暴行を加えられ、あちこち痛む体に鞭打ち何とか立ち上がると、

 踏み出すために響く痛みに耐えながら、その後を追った。

 

 通路に出ると、両側には檻が並んでいた。

 頭に布を巻いた、荒んだ様子の人々が入っているが、俺に興味はないようだ。

 先を歩くお姉さんの先では、外の明かりが差し込んでいた。

 

 明かりが朱に染まっている。夕方になっているようだ。

 外に出ると、そこが広い敷地で、

 周囲を白塗りの壁で覆われていることが分かった。

 丘の上で街を見下ろした時に目立っていた場所だ。

 確かここは——


「お奉行まちぶぎょう様に捌いてもらう。覚悟しろ!」

 

 振り返ったお姉さんが、元々吊り上がった目尻を更に吊り上げて言った。

 

 やはりそうだ。

 向かっている先に、横長の建物が見える。

 そして、その前にだけ小石が敷き詰められており、

 中心にはやけにボロいゴザが敷いてあった。

 あれだ、時代劇で見る、罪人があそこに座ってお奉行の判決を待つ奴だ。

 その周囲には人が集まっており、太鼓なんかも置いてある。

 集まっているのは奉行所関係の人たちだろうか。


「座れ!」


 予想通り、ゴザに座らされる。


「足跡の街奉行! 四方田よもだ銀様~! ご出座~!」


 太鼓を持った男が言い、どんどこと太鼓を打ち鳴らした。

 と、正座した俺の目線より高い床の家屋の奥から、男が現れた。

 チョンマゲに、肩が左右に広がった肩衣を羽織っている。

 

 あれだ、遠山の金さんだ。

 これは銀さんとかいうパチもんだけど。

 銀さんは床の真ん中にあった高そうな座布団に腰を降ろすと、俺を見つめた。

 鋭い眼光に金玉がキュッってなる。


「さて、まずは名を名乗れ」


「あ、荒頼あららい遥人です」


 金さんに促され、俺は正直人答えた。


「貴様! この我に嘘を申すか!」


 なのに、マジ切れされた。俺が困っていると、


「そのような苗字などない! 本当のことを言え!」


 誰かがそんなことを言ったのが耳に入った。


 なるほど。この世界には、荒頼あららいという苗字はないのね。

 ていうか、お前ら苗字全部把握してんのかよ。どんな苗字があるんだよ。

 ……そうだ。


「申し訳ありません。先ほど目覚めたばかり故、少々混乱しておりました。

 私の名前は、五味遥人と申します」


 五味先生の苗字をお借りすることにした。


「ふん。ではこれより五味遥人の悪行について吟味を致す! 

 おもてを上げええええええええい!」


 上げてるっつうの。

 あと、そんなに叫ばなくても聞こえるから。


「さて五味遥人、貴様は警邏けいら隊副隊長である六笠むかさ粕成かすなりの耳を、

 損失せしめたことに相違はないな!」

 

 ええ……。

 喜多見に教えてもらったけど、警邏隊って警察だろ?

 あいつが警察とかマジでこの世界終わってんな。

 まあ、男って理由だけで取り立てて貰った役職だろう。

 

 というか、不味くないか? あいつが警察の幹部なら、

 ラジー賞を総舐めにする俺の演技力では、嘘を突き通せないかもしれない。


「相違ありません」


 ええい、ままよ。何とでもなれだ。

 だが、俺の心配をよそに銀さんは満足げに頷いた。

 よかった。こいつチョロイわ。


「では、貴様には追って、二年の懲罰と奉仕を申しつける!」


 二年? ま、マジで? ちょっと冗談きついっす。


「では、罪人の証である焼き印を付けて、お開きと致す!」


「へ?」


 銀さんの後ろから、サディスティックな笑みを浮かべておばさんが現れた。

 手には焼きごてを持っており、先端部が赤熱していた。


「ちょちょちょっ! ぐえっ!」


 慌てて逃げようとした俺を、聴衆たちが押さえつけた。

 うつ伏せになった俺は、四肢を押さえつけられ、身を捩ることすらできない。

 軽快な足取りで、サディスティック・ババアが建物から飛び降りた。


「や、ヤメロォ!」


 俺の正面までやってきたおばさんは、俺の言葉を聞いて満足そうに顔を歪めた。

 熱で空気を揺らがせる焼き鏝が、俺の額に近づけられて――


「待て! それまでだ!」


 寸でのところで銀さんがそれを制止した。

 残念そうに、おばさんが俺から離れる。

 銀さんに、若そうな男が何やら耳打ちをしていた。

 

 銀さんは


「ふんふん。え~、マジで? 姫様と揺光様がぁ? それって超やばくな~い?」

 

 みたいに、頭がやばい感じの喋り方で驚いて、そして一言、


「恩赦と致す!」


 狐につままれた上に跳び蹴りを食らったような気分だが、

 どうやら、俺は助かったらしい。


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