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この世とあの世の生活

この世とあの世の生活〜第7話〜

作者: 福紙

現世のアパート。今日は雨降りである。朝からザアザアじめじめ。梅雨(つゆ)の時期だ。物珍しそうに白刃(しらは)は窓の外を見た。こん助も一緒に見ている。


「…現世に彷徨っていた時に不思議だったのだが…水が降ってくるのだな…」


「そのレベルからですか?!」


「地獄は雨と言ったら、火の雨だろう?」


「確かにそうですが…まさか海がしょっぱいのも知らないとか…」


「海?味がするのか?!」


愚問(ぐもん)でしたね。地獄じゃ、火の海と血の海と銅とか何か熱い何かでしたね…」


と言っていると、新聞を広げて読んでいた閻魔大王がニヤニヤとする。


「白刃よ…お前の恋仲の杏慈(あんじ)に話す事が増えたな…くくく…!」


「っ!?恋仲などではありません!!奴はただの幼馴染です!」


白刃は色白の頰を赤くして言う。完全に隠しきれていない。すると、こん助が何か思いついたようにタブレットを取り出して、得意の検索を始めた。その間も白刃は閻魔大王にいじられていた。そしてこん助は手を止め、2人にタブレットの画面を見せた。


「そんな恋愛ビギナーな白刃さんに朗報!恋愛ビギナーのデートには映画館が最適!」


「びぎ…?何だ?!よくは言われてないのはわかるが!」


「要するに、現世で杏慈さんと逢い引きするなら映画館が1番って事です」


「だから、杏慈はただの幼馴染だ!!」


「ほぅ?その黒い龍の鱗の守りを肌身離さず持っているのにか?」


「こ、これは!奴が絶対持っていけと言うから…!!こん助!!その映画館とやらに連れて行け!」


「はいはい」


とニヤニヤと笑いながら、こん助は最寄りの映画館を検索した。


バスで10分のところに映画館があったが、傘を差して3人は歩いて向かっていた。お馴染みのバンドマンのような黒いズボンに黒いブーツ…白刃が加わった事で、ヴィジュアル系バンドマン風の2人組とその後ろに小学生ぐらいの少年が歩いていると言う不思議な組み合わせだ。


「雨の中を歩くのも粋なものよ」


「バスが激混みで乗車拒否したのはどなたですかね?」


「あのような箱の中に人間を入れるのは、地獄に堕ちた時のために生前から訓練してるのですか?」


と口々に言いながら歩けば映画館に着いた。休日だけあって混んでいる。こん助を先頭に映画館へ入って行く。


「して、こん助よ」


「映画とは何だ?」


「やっべ!説明してなかった…。えーっと、とっても大きな紙に動く絵が映るのです。何で表現…あぁ!あれです!閻魔様がお裁きの時に亡者の生前の行いを映す、浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)みたいな物です!」


「「なるほど」」


閻魔大王と白刃は理解した。こん助は“例えるものが地獄にあってよかった”と安堵した。次は何を見るかだ。


「こん助、あれは何だ?」


と閻魔大王は上映中の映画のポスターを指差した。


「あぁ、あれですか…。確か…怖すぎて途中退場者や、震えが止まらない程怖いって評判の映画です。15歳以上じゃないと見られない映画ですね」


「うむ。それにしよう。白刃もよいな?」


「はい」


「僕、大人に化けてきます」


とこん助はトイレに行った。閻魔大王は映画館に漂う甘い匂いに気づいた。


「白刃よ、菓子が売っているぞ?」


「はい…何の菓子でしょうね…?」


「飲み物も売っているのだな…どれ、私が買ってやろう」


「閻魔様直々に?!」


「ふふふ…こんびにで買い物ができるからな…!」


と得意げに閻魔大王は尻のポケットから財布を出した。そして閻魔大王と白刃は注文カウンターに来た。女性の店員が対応してきた。と、閻魔大王と白刃の姿を見て、頰を赤くする。


「い、いらっしゃいませ!ご注文は?」


「ぬ?ちゅ、注文…?!」


と予想外の答えが来た。


「ふぅー…大人に化けるなんて久々…」


トイレから出て来たこん助は大学生風の青年に化けていた。閻魔大王たちとは違う服装だ。


「閻魔様ー!白刃さーん!お待たせしまっ?!」


と戻って来たこん助は閻魔大王と白刃が大盛りで特大のポップコーンとフタとストローを取ったLサイズの飲み物(緑茶)とチュロスとフライドポテトを持っていた。


「おお、こん助。これは貴様の分だ」


「あ、ありがとうございます…よく僕がいなくて買えましたね…」


「よくわからぬから、白刃が女中(店員)に聞いたら、買えた。この女たらしが!杏慈に言うぞ!」


「ぅぐっ!!」


と白刃は不意に言われて緑茶を吹き出しそうになった。そしてこん助は券を買って来た。


「もうすぐ開場らしいです」


「ほぅ」


と上映が終わった映画の退場者たちが震えながら出て来た。中には泣きながら出て来た人もいた。


「さて、僕らは別会場らしいので入場しましょう。あそこの関所(受付)のお兄さんにこの券を渡すそうです」


と閻魔大王たちが立ち上がった。いつも見られる立場なので3人とも気づいていないが、周りの女性たちが彼らを見て「かっこいい」、「どこのバンドの人だろう?」とヒソヒソ話していたが、後に一部の女性が死後地獄に堕ちた時、「あの時映画館にいたかっこいい人」と言われた。

会場に入って決められた席に座った。何故か飲み物や食べ物を持っていたのは閻魔大王たちだけだった。


「何だ、皆、食べてはおらぬではないか。こんなにうまいものを」


「映画のレビュー…見たんですけどね。食べ物飲み物持ち込まないの推奨とたくさん書かれてます」


「じゃあ、何故売っている?おかしい事を言うものだ」


「映画の内容ではないでしょうか…?何かワクワクしてきますね!」


と映画が始まる前のワクワク感が出て来たこん助。と上映のブザーが鳴ると、それに3人は驚いた。辺りが暗くなり、スクリーンが現れる。そして映像が映った。


「本当だな。私の浄玻璃鏡に似ている」


とチュロスを食べながら長いCMを見ていた。そしていよいよ本編のスタートであった。注意事項が色々書いてある。


「…上映中、上映後、気分が悪くなっても自己責任でお願いします…?何だ、健康被害を与えるのか?」


「いえ、内容が内容なだけであるそうです」


と注意事項が終わり、噂の恐怖の映画が始まった。

(※ちなみにこの話は全年齢対象のため、映画の描写は書きませんので、観客と閻魔大王様たちのリアクションでお楽しみください☆こん助より)

映画が始まった定盤、あちらこちらから悲鳴が響く。とても音響もよくそれが更に恐怖を駆り立てる。驚きのあまりガタンッと音を立てる者もいた。顔を手で隠し、指の間から見る者もいた。

だがある一部だけ動じない者たちがいた。


「内容はつまらぬが、周りの反応が面白いな」


チュロスをサクサク食べる閻魔大王に、


「こんなの見なくても、死後地獄に堕ちれば実体験できるものをわざわざ生前で…」


と緑茶を飲む白刃と、


「いや、鍛えてるのでしょう…。ほら心構え的な」


とポップコーンを食べるこん助らであった。

まさに阿鼻叫喚でまさに地獄の刑場のような会場は地獄の者にとってはごく普通の日常の事のようだった。


上映終了。青ざめたり、恐怖のあまり泣き出したりする者の中を平然な顔と態度で退出する3人がいた。


「こん助よ、我々はこの現世の生活をしたいのだ。わざわざ地獄のような場所に連れてこられても…」


「申し訳ございません…」


阿鼻(あび)地獄の獄卒から言わせてもらうが、もう少しあれを…」


「あああ!白刃さん!映画の内容は言ってはいけません!」


と雨が晴れた青空の下。3人はアパートへ向かった。


後日、この映画のレビューに「俺の前に座ってた、男3人が平然とポップコーンとか食べてた」と投稿されていた。

閻魔大王たちのアパートにはテレビがありません。後々投稿します。映画の内容はご想像にお任せします。

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