名もなき手紙~過去と現在をつなぐ架け橋~
とある方と活動報告でやり取りしていたら、ふと思いついた作品です。よかったら、読んでみてください。
○月×日 土の中から手紙が見つかった。
ディア様
どうか、このような暴挙ともいえる私の行為をお許しください。
先日お会いした時から、あなたの人柄に触れ、私の胸の鼓動は常に高鳴るばかりです。
相手の賞賛に素直に喜ばれる姿はまるで穢れを知らない少女のよう。
相手の辛辣な言葉に対して毅然と立ち向かわれる姿はまるで民を守る騎士のよう。
相手に対しての思いやりのある姿はまるで慈しみあふれる聖母のよう。
どうかこの気持ちをあなたに伝える無礼をお許しください。
明日、戦場に向かう私の最後の我儘をお許しください。
お慕いしております。既に我が忠誠は国のために捧げておりますが、愛はディア様に捧げます。
もし、武勲を上げ、戦場から戻った際はどうか貴方様のお気持ちをお聞かせください。
トール
~数年後~
その手紙は資料として博物館に飾られていた。
ある日、肩を落とした青年が博物館にやってきた。
彼はひどく落ち込んだ様子で歩いていた。
そして、何気なく手紙を見た彼は頭を抱えて倒れた。
また、とある日、肩をいからせた少女が博物館にやってきた。
彼女はひどく怒った様子で歩いていた。
そして、何気なく手紙を見た彼女は頭を抱えて倒れた。
一人ならまだしも二人も倒れたとあっては、何か悪いものがついているという噂になってしまった手紙は捨てられた。
~数日後~
博物館の前で青年と少女が言い合いをしていた。
いや、青年の方が言われっぱなしだったので言い合いというと語弊があるかもしれない。
どうやら少女が暴漢に絡まれていた子供連れの母娘を助けたようとしたようだが、少女の力では叶わず、危ういところで青年が助けたようだ。
助けられた母親が二人を懸命に宥めているが、一向に聞こうとしない。
だが、言われっぱなしだった青年がある言葉をいうといきなり少女が泣き出した。
数分後、いきなりの展開に周りが呆気にとられる中、二人は言い合いなどしていなかったのように仲睦まじい様子で腕を組み、帰っていった。
後日、その事をみていた一人は暴漢から母娘を庇う少女の姿はまるで騎士のようだったといった。
~数十年後~
「ねぇねぇ、おばあ様。あの話を聞かせて」
『やれやれ、本当に好きだね。お前は』
5歳くらいだろうか。ベットに寝ている少女が老婆に話をせがんでいた。
「だって、好きなんだもん。ねぇ、お願い、おばあ様」
『しょうがないね。聞いたら寝るんだよ』
「うん!」
少女の懇願にしぶしぶといった感じで答えた老婆だが、口元は笑っていた。口でいうほどいやではないらしい。
『そうだねぇ、私とおじいさんの出会いはおじいさんが手紙を私にくれたことがきっかけでね……」
「うんうん」
どれくらいたっだろうか。いつの間にか少女は寝ていた。
老婆はやれやれという風に首を振り、少女が風邪を惹かないように毛布をかけてあげた。
その表情は慈愛あふれる聖母と勝るとも劣らない孫を愛する祖母の顔だった。
◆◆◆◆◆◆
捨てられた手紙の最後にはこう書かれていた。
トール、貴方の気持ちは大変嬉しいです。私も貴方の帰りを待ちます。
ですが、その時は手紙ではなく、貴方の口から貴方の言葉で気持ちを聞かせください。
その時は私もあなたに気持ちを伝えますと。